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柔軟剤で殺人ができるのか?

冒頭からなにやらきな臭いお題目のブログですんませんです。

先月あたりから巷を騒がせている、ある病院の終末期医療病棟での複数不審死事件。
その原因が、どうも、点滴に混入された異物によるものだということ。そして、その異物というのがある種の消毒液で、いわゆる「逆性石けん」ともいわれる薬剤だった、というニュースが流れてましたよね。

命を救うのが本来の目的である医療機関内で、しかも薬剤混入がどうも事故ではなく故意によるものではないか、ということで様々な話題を振りまいている嫌な事件ですが、情報開示が進むうちに、事件の人道的問題や陰湿な人間の性といったこととは違うところで、「そんな逆性石けんで人って死ぬの?」という質問を周りから複数頂戴しました。
少々不謹慎ではあるかもしれないことは承知の上で、今日はそのことをブログにしたためようと思います。

 

みなさん、逆性石けんってご存知ですか?
名前だけは聞いたことがあるとか、なんか石けんっていう割には汚れが落ちないんだよねとか、あぁ柔軟剤だよね、とか・・。
いろいろなレベルや内容で耳にされた方もいらっしゃれば、全然ご存じない方もいらっしゃるかと思います。
そもそも、「石けん」ってなんだよ、って思いません?今回はそのあたりから始めてみようか、と・・・。

 

全ての物質は、「分子」ってやつからできてますよね。分子とは、その物質の性質を兼ね備えた一番小さな塊のこと。ちなみに分子は更に「原子」ってやつからできてますね。
石けんも物質なのでやはり石けん分子ってのがあるのですが、この石けん分子ってちょっと変わった形してるんです。
「日本石鹸洗剤工業会」さんから画像を拝借いたしました。下を見てください。

なんかマッチ棒みたいですよね。そうなんです。まぁイメージと言えばイメージなんですが、そんな形してるんですよ。で、丸っこいアタマのほうと、細長いお尻の方で性質が違いまして、簡単に言うと、アタマは水とお友達になりやすい奴で、お尻は油とお友達になりやすいんです。
本来、水と油っていうのは全く混じりあいません。というのは、水の分子って一個一個が実はプラスとマイナスを持った磁石みたいなやつなんですけど、油の分子は磁石みたいな性質が全くないんです。だからくっつかない。まぁ言えば水の分子は棒磁石で油の分子はプラスチックの塊りです。棒磁石とプラスチックはくっつきませんもんね。くっつかないから混じらないんです。

ですが、上の石けんの分子は、丸いアタマが磁石になってて、細いお尻は全然磁石じゃないんですよ。だから、磁石のアタマの方には磁石な水分子がくっついてくる。で、お尻のほうには磁石じゃないもの同士仲良くなって(僕らの世界ではプラスチック同士はくっつかないんですが分子みたいな小さな世界だと磁石じゃないという同じ性質の仲間同士がとても近づくとヒョイってくっついちゃうんです)油がくっついてくる。
・・・そうなんです。この石けん分子って、水分子と油分子の仲人役をやってくれるんです。で、このひとつの石けん分子が油分子と水分子を取り寄せて油と水が仲良くなって水と油が溶け合うようになるんですね。

物理化学用語で、ある同じ性質の物質が均一にある状態のことを「界」って言ったりします。「水界」とか「油界」とか「気界」とか(あんまり言わないか・・)。で混じりあうことのできない二つの界が隣り合わせになると、混じらないから必ず境界面ができますよね。これを「界面」と言います。
で、例えば水と油の界面に石けん分子が来ると、石けん分子のお陰で水と油が混じりあっちゃってぐっちゃぐちゃになりますね。きれいに境界面があるときは動きがないけど、石けんのおかげで面が崩れてぐちゃぐちゃ・・。これを「活性化」と言います。そうです。「界面」を「活性化」するものを、「界面活性剤」と言うんですね。

石けんはとても有名で身近な界面活性剤ですが、他にも界面活性剤っていろいろあります。
たとえばパスタの茹で汁にはサポニンという界面活性剤が含まれているのでオイル系ソースに茹で汁入れて「乳化」させますよね(そうです、界面活性と乳化は同じ意味です)。
また、コメのとぎ汁には米ぬかに入っているガンマグロブリンっていう糖タンパク系抗体が入っていてこれがまた界面活性を示すので、コメのとぎ汁で油汚れが落ちやすくなったりします。
あとは有名どこでマヨネーズ。マヨネーズは、酢と卵と油に塩を入れますが、お酢ってほとんどが水(例えば日本の米酢は3~5%が酢酸であとはほとんど水です)なのに油と水が分離してないですよね。あれは、卵の卵黄の中にある「レシチン」という物質が界面活性剤の役割をしているからなんですね。おいやかもしれませんが、レシチンの見やすい分子構造式がネットで見つかったので拝借します。

なんだかよくわからん、とお思いの方もいらっしゃるかと思いますが、そんな難しく考えていただかなくて結構です。細かいとこは置いておいて、なんだかとぐろ巻いてて長そうですよね、この分子。そうなんですよ。レシチンって枝分かれしながら長いんです。でそのほとんどの部分が油とお友達になる部分ばかり。
で、この構造式の左下、窒素(N)のあたりにプラスマークがありますよね。あと、酸素(O)の一つにはマイナスマークもありますよね。これが磁石な部分です。特に、一番左下の窒素Nのプラスの力がとても強くて、ここに水が取りつきます。で、水がお友達になるところと油がお友達になるところが一つの長ぁい分子の別のところにあるので、このレシチンも界面活性剤になるんですよね。

ということで、石けんも洗剤もマヨネーズも、広い意味では接着剤でさえ界面活性剤なわけです。ある意味ふのりだって界面活性剤ですね。

で、石けんや洗剤になる、すなわち界面活性作用(すなわち乳化)が強くて、油をたくさん取り込んで水に溶かしてくれるようなものは、水とお友達になる磁石部分がマイナスなやつが多いんです。ちなみにこれを「陰イオン系界面活性剤」と言います。「マイナス」は日本語で「陰」なんですよね。

かたや、磁石部分がプラスのやつもあるんですけどそういうのって上のレシチンみたいに図体がでっかくてフクザツなやつが多いらしいんですよ。で、そういう大きい分子って、動きがのろくて活性しにくいんです(すごい乱暴な説明ですが)。だからあんまり洗剤としては役立たない。だけど、図体でかいおかげで空気中の水なんかを体にからめつけたまま(本来は友達になりにくい磁石じゃない部分にもからめちゃうらしいです)、磁石の部分を使ってタンパク質やセルロース(植物繊維)が持ってるマイナスの部分にのそっとくっつく。そうするとくっつかれたタンパク質やセルロースは電気的にプラスマイナスゼロで中性になるし、少し水を持ったでかい分子がくっつくから湿りけで静電気が起きにくくなって、油っぽい体を持った奴がくっついてるからぬめりや柔らかさが出るんです。
ちなみに、この磁石部分がプラスの界面活性剤を「陽イオン系界面活性剤」と言います。陽イオン系界面活性剤は、洗浄力が弱い代わりに、静電気を抑えたり取りついた物質を柔らかくしたり保湿したりするんですね。
だから、陽イオン系界面活性剤は、絹(タンパク質)や綿、麻(どちらもセルロース)でできた繊維につける「柔軟剤」として使われるんですね。

そして、この陽イオン系界面活性剤は、取りつく相手が小さな細胞だと、その細胞の膜や壁も壊しちゃいます。図体でかいまま細胞膜や細胞壁にある油やたんぱく質やセルロースに取りついて、でかい図体を利用して膜や壁にダメージ与えて壊して細胞を破壊します。
すなわち殺菌するんですよ。
陰イオン系界面活性剤も殺菌能力は少しありますが、概して陽イオン系界面活性剤の方が殺菌能力は高いらしいです。

この、陰イオン系界面活性剤と似てるところと似てないところ、油落とすんじゃなくてかえってぬめっとさせるところとかの性質から、陽イオン系界面活性剤のことを「逆性石けん」といういい方をするんですね。

 

さあ、ここで陽イオン系界面活性剤で有名なのをいくつか挙げてみましょう。

●塩化ベンザルコニウム
ベンザルコニウム塩化物、ベンザルコニウムクロリドなどすべて同じものです。消毒剤として多用されています。今回の病院の不審死事件で問題になってる逆性石けん、消毒剤の張本人です(消毒剤名はヂアミトールというメジャーなものです)。少量で強力な消毒作用を示します。意外といろいろなものに入っています。目薬、ハンディなアルコール消毒液、化粧品の防腐剤としても利用されています。構造式、拝借したもの下に示します。これ、左がやたら長くて、右の方に窒素Nのプラスがありますよね。ここが磁石で水と友達のところ、左の長ーいところと一番右の亀の子(ベンゼン環といいます)が油とお友達のところです。

 

●塩化ベンゼトニウム
ベンゼトニウム塩化物とも言います。これはマキロンのメインな有効成分です。やはり消毒剤として利用されています。下の構造式見てもらうと、ここにも窒素Nのプラスがあります。そのあたり以外は長くてでかいですね。やはり長くてでかいのが油部分、この窒素Nのプラスの磁石が水が取りつく部分です。

 

●塩化ジステアリルジメチルアンモニウム
ながぁい名前ですんません。DSDMACなんて略されることもあるみたいです。こちらは柔軟剤としての利用が多いです。ソフランやレノアなんかに入ってるのはこれですね。みてみると、細かいことは置いといてやっぱり図体でかくて長くて窒素Nのプラスがあります。

 

●臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム
あぁもう正直当方も名前覚えてられませんこんなの。これは良く洗髪後のコンディショナーに使われている界面活性剤です。何度も同じ話ですが、これも長くて図体でかくて窒素Nにプラス、ですね。

 

・・・はい。なんか構造式オンパレードですんません。でも、みなさん、構造式ご覧になって気づきませんか?
そう、卵のレシチンも塩化ベンザルコニウムも後のなんかややこしい名前の奴も、みんな、窒素Nから4本手がでてて、その先になんかややこしそうなのがたくさんくっついてるだけで、窒素Nには必ずプラスマークがある・・。そこは全部同じでしたよね。
この、窒素Nを中心にこんな形してる陽イオン系界面活性剤をよく「第四級アンモニウム塩」って言います。そして、この第四級アンモニウム塩はおおかれすくなかれ殺菌作用があるんです。あとは、そのほかのところに何がくっついてるかで、消毒剤専門になったり、柔軟剤につかわれたり、というかんじです。

柔軟剤の成分を見ると、この第四級アンモニウムって書いてること多いですし、ソフランやレノアに書いてる「エステル型ジアルキルアンモニウム塩」っていうのもこの第四級アンモニウム塩の一種です。

それから、レノアとかソフランに「抗菌効果」って書いてるの見たことないですか?あれ、実はあたりまえなんですよ。この第四級アンモニウム塩使ってたら自動的に抗菌効果がついてきます。だから、巷の柔軟剤は基本的にもれなく抗菌効果付きです。

「え?じゃぁ柔軟剤でも死ぬんじゃないの!?」とお考えの方。はい。死ぬと思います。なかなか特定の柔軟剤用界面活性剤の致死量は出てこなかったのですが、例えば公益法人日本中毒センターが看護師向けに作成している中毒情報によると、ヘアリンスに使用される界面活性剤(おそらく臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム)は体重1kgに付き1~3gが経口致死量とのことでした。ざっくりですが、リンスに入っている界面活性剤分量が10%程度としたら、体重75kgの当方が柔軟剤やリンスで死ぬには約2.2kg分量を一気に飲まないといけないですね。

それでも、同じ液体のアタックやボールドよりは少量で死に至ると思います。先ほどもお伝えしました通り陽イオン系界面活性剤の方が殺菌効果が高いですから。

ちなみに「レシチン」も量によっては悪さをする第四級アンモニウム塩です。他の合成第四級アンモニウム塩に比べると圧倒的に安全(すなわちもちろん殺菌力も低い)ですが、多用すると異常発汗、吐き気やおう吐、めまい、下痢や腹痛などの症状が出ることがあるらしいですし、人によっては少量でもアレルギー反応が出る場合もあります。ご存じの通りレシチンは卵や大豆アレルギーの重要なアレルゲンの一つとされていますね。力は弱いですがやはり陽イオン系界面活性剤としての細胞に対する影響力は持っている、ということなのだろうと思います。

そして今回の事件に使われた塩化ベンザルコニウム。これの致死量は少ないです。日本病院薬剤師会が医療現場で正しい薬品利用をするために作成している「医薬品インタビューフォーム」という資料によると、体重1kgあたりのヒト推定経口致死量が50~500mg。かなり幅がありますが、これから計算すると当方が死ぬには最大で37g程度の塩化ベンザルコニウム原液を飲めば間違いなさそうです。この塩化ベンザルコニウムは実際には水で希釈されて「ヂアミトール」という商品で病院内などで使われていますが、その塩化ベンザルコニウムの含有率は0.025%から50%までたくさんの濃度のものがあります。
一番薄い、肌の消毒に使われるような0.025%液だと148Lも飲まないとだめ(そんな量飲めるわけないけど)ですが、医療器具の殺菌に使われる50%液だと、70ccくらい、コップ半分で死んでしまいますね。
今回の事件もニュースだけではどの程度の分量を使用したのかわかりませんが、経口に比べて静脈接種の方が極めて少量で薬効は出てしまうのでそれほど目立つ量でなかったのかもしれません・・・。

 

・・・なんだか全く主張性のないお話しではございますが、結局はこの第四級アンモニウム塩を使用すると、どれも適正な(と言っては本当に不謹慎極まりないのですが・・・)量を使用することで致死量になる、ということになるわけですね。
あぁ、やっぱり逆性石けんって怖いなぁ、ということになりそうなのですが、でも例えばご存じの通り食塩(塩化ナトリウム)にもヒト経口致死量がありますよね。おそらく古代の昔からその致死量は調べられてたと思うのですぐに数値は見つかりますけど例えばwikiを見ると、当方の体重なら260gくらい一気に食塩を食べれば致死量です。でも、誰も塩を毒だって怖がらないですよね。それは、「そりゃそんなに食べたら体に悪いよ」って感覚的に知ってるからですよね。

まぁ、食べ物として(すなわち人間の生理機能に関して)とても重要で有益な塩と柔軟剤を比べるのはいかがなものかとも思いますが、なにごとも分量が大事なのかな、と。なにごともバランスとほどほどの量が大切、ということなのでしょうね。

なんか、まとまったようなまとまらなかったような・・。
すみません、今回は化学式オンパレードでしたがそれは実はどれも良く似たやつなんだよということをご覧いただきたかったからです。大変失礼いたしました。

ちなみに、当方は柔軟剤のあのわざとらしい柔らかさと水の吸いがわるくなるのが嫌いだから使いませんけど(笑)

 

手染メ屋
http://www.tezomeya.com/

 

※今回拝借した画像は全てURLリンクを貼らせて頂いております。出自のわかった日本石鹸洗剤工業会さんはソースが明らかにできましたがその他の構造式はソースもわかりませんでしたためリンク元情報を掲載できませんでした。もし今回のリンクでご迷惑をお掛けするようなことがありましたらどうぞおっしゃってください。すぐにリンク解除致します。

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Filed under -科学, せつめい系