烏梅製造の中西喜久さん訪問記

2018年8月18日 暑さが戻った土曜日、奈良県月ヶ瀬村に訪れました。
目的は、この地で江戸時代から連綿と続く烏梅(うばい)製造を行っている中西喜久さん宅を訪れる為。

烏梅とは、簡単に言えば梅の燻製。


中西さん作の烏梅。真っ黒です

 

平安時代の延喜式など各種書物にも記述のみられるもので、古来中国よりその製法が伝わりお薬やさまざまな助剤として使われてきたもです。
そして、16世紀ころから紅花染めをする際の必需品として欠かせない助剤となり、ここ月ヶ瀬村はその烏梅の一大生産地となった地域だったそうです。

江戸時代、京の紅屋(紅花を使って口紅を作ったり紅色に生地を染める紅花染め専門工房)は、質の良い紅花の染料を山形から買い、そして助剤として必須の烏梅をここ月ヶ瀬村から取り寄せて、高品質で素晴らしい色の口紅、紅色絹地を作っていたそうです。

中西さんの烏梅作りが本年8月下旬に民放の番組で取り上げられ、その烏梅を使った染めのお手伝いをさせて頂いたことから、やっと中西さんとコネクションが生まれ、長年ずっと想い焦れていた月ヶ瀬村にやっと訪問できる機会を得て、お忙しい所無理をお願いしてお伺いした、と言う訳です。

お伺いすると、ご自宅兼工房前に烏梅の説明看板が。


喜祥さんは喜久さんのお父様です

 

残念ながら烏梅作りは7月上旬から中旬の限られた季節だけ。
完熟した梅をすぐに加工するため、作業できる時期が限られるのだそうです。
なので今は烏梅作りはお休み。乾燥スペースのお庭には美味しそうな梅干しがたくさん干されていました。

 

中西さんとご子息の謙介さんが、烏梅作りの道具と場所を全て解説してくださいます。
制作順番に沿って道具を紹介していきますね。

収穫した完熟の梅にまず煤をまぶすのですが、こちらは煤をまぶすためのジュウノ(十能)という道具。
ここに梅を入れて、そこに煤を入れてかき混ぜながら煤を実の表面にまんべんなくまぶしていくそうです。謙介さんがどのように使うのかを教えてくださいました。

 

煤をまぶした梅をこのウメスダレにきれいに並べます。
ウメスダレは大きさが2種類。これは、後で画像が出てくるカマ(窯)に2段に入れられるように。
新しく作ったものと、昔々から大事に使っているものがいろいろありました。

 

こちらがカマ(窯)。現在は来年に向けて蓋がされていましたが、無理お願いして開けて頂きました。

  

もみ殻をいぶして、そこに煤をまぶした真っ黒の梅がたくさん載ったウメスダレを2段に重ねて、上からムシロを敷いて、一昼夜いぶすとのこと。

中西さんのところにはこのカマが3つありました。


喜久さんと謙介さんの後ろに3か所のカマが見えます

 

そして、いぶされた梅は、ウメスダレごと先ほどの梅干しが干されていたところで、何週間も天日干ししてやっと出来上がり。

とてもとても時間と手間のかかる作業で、改めてびっくりしました。

こうしてできた中西さんの烏梅は、現在もあちらこちらで活躍しています。
京都の有名な染色研究家である吉岡幸雄さんや東京の山崎和樹さんはもちろん、天皇家の装束制作で有名な東京の高田装束研究所さんや、紅花染めで有名な山形の新田織物さんや山岸幸一さんなどもお客様とのこと。
tezomeyaは、友人やお客様のつてなどで何度か手に入れたことがあったのですが、今回はれてウチも買わせて頂けるようになりました。よかったよかった。

作業場の見学だけでなく、中西さんから烏梅に関わる色々なお話も伺えました。

江戸末期頃までは月ヶ瀬村は烏梅が最大の作物だったが明治中期には10分の1以下になってしまったこと、そしてその衰退のタイミングが山形の紅花生産とほぼリンクしているというここと。

烏梅はもともと中国から渡ってきたが、現在は中国の烏梅とは製法も見栄えもかなり違うこと。

完熟した梅が烏梅になると、重さが約5分の1になること。

いぶすだけでなくわざわざ煤をまぶして黒くするのは、最後の天日干しで出来るだけ多く日光を吸収して乾燥率を高めるための先人の知恵であること。

・・・などなど、細かい内容も含めて本当にたくさん教えて頂き、話は尽きずあっという間に2時間も経ってしまいました。

そして、今回初めてお伺いして個人的にとてもうれしかったのが、ご子息の謙介さんが現在は主力になって烏梅作りのお手伝いをされていること。

中西さん関連の情報は多方面からいろいろ伺っていて、後継者がいらっしゃらないという話をうわさで聞いていたのですが、昨年から謙介さんが本格的に烏梅製造に着手しておられるそうです。

そして、なんと烏梅は現在インターネットでも購入可能です。
謙介さんが運営されている以下のサイトからいつでもだれでも買えます!

梅古庵 https://baikoan.thebase.in/

ご覧頂ければお分かりですが、梅干しも主力商品。
当方もお土産に購入しましたが、とってもおいしかったです!

 

紅花とともにその栄華盛衰の道を歩んだ烏梅。現在はクエン酸が簡単に手に入るので、わざわざ烏梅を使わなくとも、実は紅花染めができます。
当方も、普段はクエン酸を使っています。

ですが、古来の色の復元となると話は別です。江戸時代の染め色を記述通りするには、必ず烏梅が必要になります。
理論的には、梅の酸味の主成分であるクエン酸を使えばいいのでしょうが、もちろん梅は生き物ですからクエン酸以外にも酸性物質があるでしょうし、あまたの物質が、紅染めの際にどんな影響を及ぼしているかわかりません。
クエン酸で染める、というのは、そういうあまたの脇役の演出の可能性をすべて無視する、と言うことになります。無視する方が、より透明度の高い彩り高い紅色に仕上るのかもしれませんが、それが良い色かどうかと言うのはまた別です。

脇役の演出があることで少しのフクザツさが生まれ、それが良い色に繋がるかもしれません・・・。

中西さんとコネクションも出来たことだし、これからはもっと烏梅使って紅花染めしよう!

・・・と心に誓った奈良からの帰り道でした。

 

中西喜久さん、奥様、謙介さん、本当にありがとうございました。
来年は必ず烏梅製造の時期にまた伺います。ご迷惑でないことをお祈りして(笑)。


右から謙介さん、奥様、喜久さん

 

http://www.tezomeya.com

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