カンボジアの染織取材その4 ~オクナ・テイ島の紋織

 

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カンボジアの首都であるプノンペンにも今回は3日間滞在しました。
ビジネス街があり、ネクタイを締めたビジネスマンを多く見かけるようなプノンペンにも、郊外に行くとやはり染織をしている場所がありました。
今回は首都から車で30分足らずのオクナ・テイ島で観てきた織物の現場をお伝えします。

 

カンボジアの代表的な2つの川、メコン川とトンレサップ川がまさに交差して出来ている中洲のような島々の一つがオクナ・テイ島(Koh Oknha Tei)です。
プノンペン市街から車で10分ほど走った川岸から船で向かいます。

こんな感じで、バイクや車や人がごちゃっと乗った渡し船。島には橋がかかっておらず、このフェリーが唯一の島への交通手段です。

フェリーから降りて島を走ると、市街とは打って変わって、これまで数多く見慣れたカンボジアの村風景が広がります。車で30分足らずなのに、もう、首都の風情は全くありません。

他の都市でも感じましたが、橋が架かっている島と、橋が架かっていない島では、島の近代化が全く違います。これはカンボジアだけのことではないのでしょうけど。

 

訪れたのは、この島にあるSilk Islandと名前の付いた染織工房です。

とても観光客目線を意識したスペースが突然目の前に広がったのですが、これは後で理由が分かりました。

 

ガイドさんに連れられて、先ずは養蚕スペースから。
黄色繭のお蚕さんがわさわさ育っていました。

アルチザンアンコールの取材でもお話ししたかもですが、こちらのお蚕さんも日本と同じ桑で育ちますけど、お蚕さんのカラダの大きさに合せて人間が桑の葉を細かくちぎって与えます。日本の家蚕よりも小さいからだからかもしれませんが、丁寧なお仕事だなと思いました。

こんな感じで繭が出来ていました。

カンボジアでは、束ねた枝の間に成長した蚕虫を人間が一つ一つ乗せて、そこで繭を作ってもらい、こんな感じに仕上がります。IKTTでもアルチザンアンコールでも全く同じものを見ました。

この日は糸引きはしていませんでしたが、道具はありました。

 

そしてメインの織場です。

カンボジアの伝統的なスタイル、高床式の建物の下に織機がたくさん並んでいました。ざっと15台ほどあったかなと思います。

こちらで、何人もの女性が織っておられました。

 

ここの布は紋織です。経糸と緯糸に違う色の糸を使い、織組織を変えながら紋柄を作っていきます。

 

地織用に綜絖が2つ、そして紋織用に綜絖が15枚あります。地織の綜絖の上げ下げに加えて、柄に沿った紋織用の綜絖を選び必要な経糸を開口し紋織用の緯糸を打ち込む、という地道な作業を続けて、平織の上に精緻な紋柄が浮かび上がってきます。

この工房で働く女性の多くは未亡人とのこと。長い内紛などで夫を失った女性の生活をサポートするためにスタートしたコミュニティーが、この工房の始まりだそうです。
画像はありませんが、工房入口の門番さんはとても快活そうな隻腕の男性でした。ここでもやはりカンボジアの大変な過去を感じずにはいられません。

見学しながら、この工房もてっきりフランスなど西欧諸国の援助なのかなと勝手に想像したのですが、詳しく話を伺うと、このコミュニティーはカンボジア人が運営しているとのこと。海外の助けによるものではなく、現地の方が現地の人のために頑張っているケースもあるのだな、と恥ずかしながら初めて知りました。

そして、この工房には公園や広場の為のスペースがたくさんあります。川岸を利用したプールもありました。もちろん、お決まりのハンモックスペースも十二分の設備です。土日には、海外からの観光客ではなく、プノンペンの都市部に住まう人々が憩いのためにたくさん訪れるとのこと。


川岸を利用したプール。まぁ、川岸を囲っているだけと言えばだけなのですが。


ハンモックが何十も並んでいます。


動物のフィギュアが広場の中に点在しています。休日にやってくる地元のご家族の子どもたちの目を喜ばせる事でしょう。

ここは、プノンペン及びその郊外の地元に人たちの憩いの場でもあるようです。
「日曜日にはお弁当を持ってきた家族でこの広場がいっぱいになります!」
と、ガイドの方がにこやかにお話ししてくださいました。
画像はありませんが、染織とは全く関係のない、フィギュアでなくちゃんと生きたワニやクジャクも広場の中に居ました。
工芸の復興だけでなく、地域の住民に対するサービスを地元の人々が行っている様を見学できて、門外漢ながらとても嬉しい気持ちになりました。

 

残念ながら、Silk Island工房では天然染料の染めを確認することができませんでした。ですが、工房の方に聞くと、この村の中には天然染料で今も糸染めをしているところがいくつもあるとのこと。工房を後にして、しばらく車で村の中を走って探してみることに。

すると、カンボジア伝統の高床式家屋の床下部分(すなわち地面の1階部分)に手織機を置いている家がたくさんあります。
そのなかで、きれいな山吹色の絹糸を干している家を発見!

 

飛び込みで、その家に取材に入りました。
床下に干されていた大量の絹糸。車中から見ると黄金色に輝いていました。

 

聞くと、午前中にジャックフルーツで染めいたとのこと。染め終わった染液が庭に放置されていました。あと数時間早ければ、染めを見ることができたのでしょう。

 

染め場です。まだ灰がくすぶってるようでした。
この辺りはもちろんガスなどなくて全て薪による火力です。大体どこもこんな感じの三点支持で、鍋底がどんな形でもぐらつかずホールドできる極めてシンプルで合理的な火床です。

 

マンゴーの木を焼いた灰で作った灰汁。甕の向こうに見えるのがマンゴーの灰です。
詳しい使い方が理解できなかったのですが、どうも染色の際の助剤に使うそう。
ちなみに絹糸は全てマーケットでベトナム産の精錬済みの物を買っているとのことでした。

ちなみに染め工程を聞いた限りではここではアルミや鉄の媒染はしていないようです。床下に干されていた山吹色の絹糸も無媒染とのこと。
南国の天然染料は時々びっくりするくらいしっかり染まったりするので、媒染はいらないのかもしれません。

 

今度は織りかけの生地を見せて頂きます。
こちらでも紋柄織の機でした。彼らは基本的に生地裏を見ながら織っていきます。

 

紋織り用の綜絖は Silk Island と同じ15枚でしたが、地織用の綜絖は3枚、Silk Island とは違い綾織です。カンボジアの織物はサンポットもピダンもちゃんとしたものは綾が多いようです。

 

他にも、既に完成した織布を見せていただきました。
織り上がった布は、プノンペンの市場に持っていくとのこと。

 

色々教えてくださったこちらの染織工房の家長さん。

名前を伺うのを忘れてしまいましたが、とても物腰の柔らかい、珍しい男性の織り手さんでした。彼は、染めも織りも全てご両親から受け継いでいるとのこと。小さい子供が工房をうろちょろしていたので、彼もまた子供たちにこれから教えていき、技術と知識が次世代に伝えられてゆくのでしょう。
突然の訪問にもかかわらず本当にありがとうごあざいました。

 

文頭でも述べましたが、プノンペンからほど近いところにもこんなにしっかりと手作業の仕事が残っていたのは少し驚きでした。
ガイドさんも話していましたが、これはおそらく橋が架かっていないからなのかもしれません。人も情報も機械も行き来がしにくくなります。そうすると、なし崩し的に手仕事でせざるを得ないことが多く残るのでしょう。
“便利さ加減”と“手作業度合”はだいたい反比例の関係にあるのでしょうけど、それが工芸の場にも如実に影響しているというのを、今更ながら目の当たりにしました。

個人的には、

手仕事でないと得ることのできない質というものがある

と思っているので、便利さ加減と手仕事の不可欠性には本来関連が無い、と考えているのですが、話はなかなかそんな簡単なことではないのでしょう。
いずれにせよ、オクナ・テイ島の訪問でもいろいろ考えさせられました。

 

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