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“吊り”とカネキチ工業さん

プロローグ ~『莫大小』の読み方

これ、“メリヤス”と読みます。ご存知でしたら、古くからアパレル業界に居られた方でしょうか。
当方は前職のアパレルメーカーで生地の勉強を始めた時に、見学に行った老舗の生地メーカーのえらいさんに教わりました。
メリヤスと言う言葉。もちろんもともとは外来語です。今の“ニット生地”とほぼ同等の意味を持つこの単語が当たり前のように使われていた昭和初期の時代、無理矢理あてがわれた漢字が「莫大小」なんです。

なぜバクダイショウなのか?
「莫大小」のコトバの意味、そのまま“バックリ大きかったり小さかったり”といった感じでしょうか。なんでこんなコトバが当て字にされたかというと、当時のニットは本当にバックリ大きかったり小さかったりだったそうなのです。
ウールセーターを想像してもらったらお分かりかと思いますが、ニットアイテムはちょっと引っ張ったらタテにもヨコにもかなり伸びますよね。ちょっとした外力で生地の大きさが変わるのがニット。もちろんその伸縮性がニットの最大の特徴なのですが、あまり簡単に変わりすぎると裁断や縫製するのにものすごく大変です。
現代の技術であれば、熱セットや様々な加工を駆使して不安定なニット生地を規定の大きさに整えて織物生地と同様に巾や長さをきっちり安定させた状態で服を作れるのですが、昭和の初期にはそんな技術はありません。編みあがった筒状の生地で、生地の巾や長さがいい加減な状態で、そのまま服作りをしていたのです。
だからその頃はニットの服つくりはとても大変だったのだろうと思います。そして、そんないい加減なニット生地にあてがわれたのがこの莫大小という漢字。この字を見るたびに、当時の繊維業界がとても苦労されてたんだろうといつも同情と畏敬の気持ちを覚えます。

そして、その“莫大小”なニット生地を作っていた時代に大活躍したのが、これから説明する“吊り”の編み機です。そうなんですよ、いい加減な生地が出来るんです。
「え、だめじゃん、そんなの!」
あはは、そうですね。でも、使い方でそれが素晴らしい生地になってしまうのです、ハイ。

現代のシンカー丸編み機に取って代わってからもう既に半世紀近いこの吊編み機、この機械を今でも大事にメンテナンスしながら素晴らしいニット生地を作っておられる工場が、私たちの素晴らしいニットを編んで下さっている和歌山の「カネキチ工業」さんです。
それでは、ここからこの素晴らしく愛すべき「吊編み機」とカネキチ工業さんのことを説明させて頂きます。

 

吊(つり)編み機とは?

先ほども説明しましたが、吊編み機はニット製品が工業的に出てきた明治の時代から昭和30年代頃までずっと活躍していた編み機です。その後、編みの速度が遅く生産効率が上がらないため後続の新しい機械にどんどんその場を奪われました。

そして、現在ではその機械はおろか使い方の知っている職人さんも一握りに。部品も全て昭和の時代に製造中止になっているので新しく機械を作ることが出来ません。古い機械を、更に古い部品取り用の機械から必要なパーツを取って調整して修理・メンテナンスする、といった状態です。
そんな前近代的な機械を200台以上もキープして大事に使っておられるカネキチ工業さん。素晴らしい工場です。なんでそんな古くて遅い機械を今でも大切に使っておられるのか?
それは「古いものは良い」、「遅いものが良い」と言ったふわっとしたイメージからではないのです。単なる懐古主義ではありません。
そう、この吊編み機でないと出来ない編地があるからなんです!
その吊編み機ならではのポイントを画像と共に紹介いたします。

 

1.吊られてるから「吊り」編み機

吊編み機が工場の木の梁に鉄柱ですえつけられています。この鉄柱で固定されているだけです。
そう、木の梁に「吊られている」から吊編み機。写真ではわかりませんが、下は地面から浮いてます。
この機械でだいたい直径80cm位。コンパクトです。上の梁とのジョイント部分のねじを外せば付け替え可能。
工場に取り付けられるのは90台ほどですが、バックヤードに次の出番を待つ吊編み機が110台ほど待機しています。

 

2.現在の最新式高速シンカー丸編み機と比較

これは現在の最新式高速シンカー丸編み機。糸が上から縦横無尽に下の編み部分に下りています。
だいたい40~60本位の糸が一度に下りていて、それが一度に編まれます。下のドラムのような丸い円柱がぐるっと回ってどんどん編みます。
だから、ドラムが一周すると糸40~60本分の太さの長さだけ生地が出来上がります。
この糸のテンションとか送り込み量などを精密に制御可能。これはこれで素晴らしい編み機械です。

 

3.吊編み機の給糸は、糸2本だけ

こちらは吊編み機の給糸部分。画像の右側にコーン状の糸が2つあります。給糸はこの2本だけ。
セッティングによっては4本までセットできるそうですが、吊編み機は下の丸い円柱が一周しても結局糸1~4本分の太さ分の長さしか編めない・・。
これが、吊編み機の仕事が遅い理由です(回転が遅いわけではないのです)。
編地にも寄りますが1反編むのに2~3日かかるそうです。

 

4.へそ部で編地が作られている際に糸にテンションがかかりません

へそに糸が送り込まれている画像。へそに付いているへそ板と、回る本体についている横向きの針(ヒゲ針って言うそうです)に乗っかった糸がへそ部で重なって天竺目が出来ていきます。画像ではわかりませんが・・・。
この編みの工程で糸にはほとんどテンションがかかりません。
現代主流になっているシンカー丸編み機などは針が上下に動いて糸を引っ張ってループを作って編目を形成しますが、吊編み機は糸に力をかけないので糸のふっくら感が失われないまま編地に仕上がるのです。

 

5.ヒゲ針一本一本に糸をひっかけて編みます

お願いして機械を止めて頂きました。
横向きの針(ヒゲ針)一本一本に糸が引っかかってます。これは前の周にへそ板で乗せられた糸。今からまたへそ部に侵入して次の糸と交差してこの針の上の糸ひとつひとつがまた編目になります。その時糸はこれ以上どの方向にも引っ張られません。
現代の編み機はこの針とは全く構造が違っており、上向きの針のかぎ状の部分に糸を引っ掛け、それが上下に動いて次の糸をまた引っ掛けて編地を作ります。すなわち糸が強く引っ張られた状態で編地が出来てしまう。
編む工程で糸に力を加えるか加えないかが、後の生地の風合いに大きく関わってきます。
この構造上の仕組みが吊編み機と今の機械では全く違うのです。

 

6.吊編み機は編み上がった生地にも全くテンションをかけません

吊編み機の全体像。編まれた生地は自重で下にどんどんたまっていきます。
画像はありませんが、現代の編み機は綺麗に巻き取ってしまいます。
これは巻き取ったほうが後で扱いやすいからですが、巻き取るには生地を引っ張らなければいけません。
そう、吊編み機は編み上がった生地にも全くテンションをかけません
下にたまった吊編み機の生地は畳んだり荷造りするのにちょっと大変です。でも、その苦労をする代わりに生地がリラックスした状態で仕上がります。
すなわち、吊編み機は糸や生地に最後まで余計な負荷をかけずにゆっくりふっくら編んでくれる機械なのです。

 

7.ヒゲ針を等間隔で完全に水平に調整するのは、職人さんの目分量

再びヒゲ針に糸がかかっている画像です。このヒゲ針、全て等間隔で完全に水平になっていることが必須なのだそうです。
で、これ、職人さんが目分量で調整して針を機械につけるそうです!
ちょっとびっくり。昔の機械だからモジュールなんてなくて、全部人の手らしいです。
一つの編み機に1000本以上あるこの針を一本ずつ綺麗に並べるなんて、すごい・・・。
染めの方がよっぽど簡単だと思います。

 

8.工場の裏で次の出番を待つ吊編み機たち

工場の裏で次の出番を待つ吊編み機たち。
稼動しているものとこのバックヤードで計200台ほどの吊編み機をお持ちだそうです。全国各地の編み屋さんから集めてここまで揃ったらしいですが、「まだ足りない、もっと欲しい」とのこと。
最近では使い方がわからなくなったあちこちの編み屋さんがカネキチさんの噂を耳にしてわざわざ持ち込んできてくれるところもあるらしいです。
本当に素晴らしいお仕事をされていると思います。

 

最後にまとめますと・・・

カネキチ工業さんの吊編み機の良いところをまとめますと、

  • 糸の持つ風合いをそのまま余すところなく生地に伝えることができるのでふっくら柔らかなニットになる。
  • その風合いは、使いつづけてもヘタりが少なく普通の生地に比べ長持ちする。

上記の2点のメリットが生まれる理由を簡単に言うと、編地を作る糸にも、編まれた生地にも「引っ張って巻きつけるなど力をかける事を全くしない」からです。
そして、もうひとつ良いところがあります。

  • 編みあがりすぐの生地では不安定(莫大小)でも、染色して乾かすと大きさは一定になる

このメリット、仕上がったTシャツをお使いいただくお客様にはあまり関係のないことですが、私たちtezomeyaとしてはとても大きなメリットです。
実際に何度も染めてデータを取り続けているのですが、染色前はとてもばらつきのある生地巾のサイズが、染色後は予想以上に(と言っては失礼ですが)きっちり同じサイズ巾にあがってくれます。これはカネキチ工業さんがとても正確に編み機を管理して編地を作られているからなのだと思います。

tezomeyaとしては、カネキチさんとお付き合いする以前に仕入れていた現代の高速丸編み機のニットよりも、カネキチ工業さんの吊編み機のニットの方が染色して仕上げるとシビアにサイズが整ってくれると思います。吊編み機のほうが精度の高い生地を供給してくれている、と感じるのです。

「そんなことないでぇ。そらやっぱ最新の編み機の方が安定した編地作れるし」とカネキチ工業さんの岡谷専務はおっしゃるけど、ボタン一つで制御できる機械の操作には熟練性があまりいらないからイージーなミスが起こりやすい。それが不正確な生地の仕上りにつながることも。
でも、アナログな機械は扱いが一様・単純ではなく高い熟練性を求めるからイージーな間違いは起こりにくい。だからかえっていつも正確な仕上りになっているのではいかな、と・・・。
勝手にそんな風に思っています。少しファンタジックに捉えているところがあるかもしれませんけど。。

吊編み機って、どうも、「機械」というより「道具」というニュアンスが強いように勝手に思っています。人間がある程度頑張らないといけない道具。だから誰でも扱えるわけではないけど、逆に扱う人の熟練性がそのままアウトプットされるコンバーター。だから機械ではなくて道具、そういう感じです。

最後に白状しますが、とにかく、個人的に吊編み機が大好きなんです。仕上がるニット素材が大好きなのはもちろんですが、その編み機も、そしてそれを扱っておられるカネキチ工業さんのスタッフさん皆さんも。

カネキチ工業さんのとてもかっこいい動画がございます。編み機をレストアして動くようになるまでのドキュメンタリー的PVです。
ご興味おありの方は是非どうぞ!

tezomeya

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