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麹塵もどきと朱華もどき
最近、着尺の色無地の仕事が増えてきた。
っていっても、ひと月に1回ご依頼があるかどうか、だが。
着尺を染めるには、それなりにテンションと気持ちが
乗ってるときじゃないと、作業に入りにくい。
いや、Tシャツ染めるときに気持ちが入ってない、って意味じゃないですよ。
でも、着尺の染めはTシャツとはやはり心持ちが違う。
今回は、以前からお付き合いさせていただいている人形師さんからの
ご依頼。お内裏様とお雛様の人形の装束用に、麹塵(きくじん)と朱華(はねず)
である。
正直に言うと、ボクが麹塵染めたり朱華を染めたりすることなんてできない。
だって、ちゃんと染めようと思ったら、例えば麹塵は、刈安を60kgくらい
使わないといけないんだもの。
朱華も、ホントは紅餅としての紅花を7kgくらい使わないとだめだ。
その染料代だけで、20万円以上しちゃう。
ちなみに、この分量は全て「延喜式縫殿寮雑染用度」からです。
だから、ものすごい光栄な仕事なんだけど、とてもとてもホンモノを
染めるなんてのはまだまだなわけでございます。
だから、人形師さんにも言い訳をして、いっつも「もどき」な色で
我慢して頂いている。
ということで今回も、
「麹塵もどき」
と
「朱華もどき」
で、ある。
どのくらいもどきかというと、
・麹塵の使用染料
ホントの分量:刈安 約65kg 紫根 約4kg
もどきの分量:刈安 約1.4kg 紫根 約1.8kg
麹塵の染めにかかる日数
ホントの日数: 多分100日以上
もどきの日数: 6日
・朱華の使用染料
ホントの分量:紅花 約7kg 梔子(くちなし) 約3kg
もどきの分量:茜 約1.1kg 梔子 約700g 刈安 約1.1kg
朱華のそめにかかる日数
ホントの日数: 多分15日くらい?
もどきの日数: 5日
※分量は全て延喜式を参考に平安時代の度量衡による記載から前田雨城氏による換算式を使わせていただいております。
かなり量が少ないし、かけてる手間・ヒマも全然ちがう。
朱華なんて、紅花の代用に茜を使うし、梔子だけじゃなくて刈安まで使っちゃってる。
これはもう、朱華って呼んじゃいけないよな・・・。
でもね、今のボクはこんなもんでしょう。
昔の人たちの染めって、わからないことだらけなのに
ボクの勉強がまだまだ全然進んでない。
着尺の染めをやってると、昔の染め師はおそろしく繊細な目と
驚異的に強い忍耐力を持ってたんだろうな、と思う。
だって、おんなじ作業を何十日も続けるんだよ。
刈安60kg使って染めるっていうのも、もちろん一回で染めるんじゃなくて
一回に1~2kg使いながら、最低30回以上染めてるわけ。
染料作るのに1日、で染めるのに1~2日。
それを何十回。
で、毎回その色の変化を見ながら染めていく。
多分、29回目と30回目なんて、全然色の差なんてわからないよ。
少なくともオレにはわからないと思う。
もう、それは色の差じゃないんだろうな、と。
なにか僕らが失ってしまった感覚器を、彼らは持ってたんじゃないか、と。
そんなことを思ってしまう。
着尺の染めをしていると。
ま、そんなことを思いながら出来た今回のもどき2色。
もどきではあるが、個人的には、いい色になんったんじゃないかな、と。
ちょっとだけ自画自賛。
だってほら、天皇に着て頂く着尺ではないし。
あ、違うか。着て頂くお人形さんは天皇様と皇后様だ。
染め上げましたる御料、宜しくお召しあそばしたく候。
ん?なんかヘンか?ま、いいか。
大久保さん、出来上がりましたよ♪。
いつでもご来店くださいませm(__)m。
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