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tezomeya日記

黄櫨染

平安の昔から伝えられている高貴な色目に
「黄櫨染」
というのがある。

これ、こうろぜん、と読みます。

ヤマハゼとスオウで染める色なんだけど、
古代の染色研究家によって
オレンジっぽい茶色だとか、
山吹に近い黄土色だとか、
いろいろなことが言われている、
正体不明でいわくつきの色だ。

まぁ、この色に限らず古代の色目ってのは
だいたいみんないわくつきで正体不明なんだけどね。

いつもお世話になってる人形師さんと、以前からよく

「一度この黄櫨染を染めて袍に使いたいですね」

なんて話していたのだが、
このヤマハゼがなかなか手に入らないんですよ。

人形師さんが淡路島から取り寄せてくれたヤマハゼで
染めても本当にぼけた色しか出ないし、
(これはボクの技術が未熟だからということもあるが)
果たせぬ夢かなぁなんておもってたんだけど、

突然そのチャンスが訪れた。

「松山櫨」というリュウキュウハゼ(ヤマハゼじゃない)の産地品種の
復活と保存の活動をされている矢野さんというかたから、
リュウキュウハゼの心材のチップを分けて頂いたのだ。

・・・ちょっと細かい話コーナー。

ヤマハゼとリュウキュウハゼってのは、似て非なる植物である。

ヤマハゼは古来より本州に自生してるとされるウルシ科の木。
昔から蝋を取ったり、染色に使ったりしていた有用樹木だ。

かたや、リュウキュウハゼはアジアや沖縄に自生する、
やはりウルシ科の木。
ヤマハゼと同じく蝋を取る木だが、これは元々本州にはなくて
江戸時代以降に琉球王国から渡って来た樹木。
ヤマハゼより大きくて繁殖力が強いみたいで
その存在感が強くなりまして、
現在では「ハゼ」といえばこのリュウキュウハゼのことを指すことが
多いとか。
ちなみに「ハゼノキ」ってのもこのリュウキュウハゼのこと。

で、平安時代にはリュウキュウハゼはまだ本州に生えていないはずだから、
古代の色の黄櫨染を染めるにはヤマハゼを使って染めないといけない、
というわけ。

更に、染めに使うのはこのヤマハゼの幹の中心にある黄色い部分だけを
使うので、それなりに樹齢の高いヤマハゼの幹をたくさんたくさん
伐採しないといけないわけで、
必然的に中々手に入らない、ってことになってる。

・・・・なんてここで更に詳しい話をし出すと終わらないし、
アタシもまだまだ勉強中なんでこの辺で細かい話を終わりまして・・・

そういうことで、
矢野さんからリュウキュウハゼの幹の黄色部分だけのチップを分けてもらって、
早速着尺を黄櫨染に試し染めすることに!

こんなのです。

ちなみに、このチップを作るだけでも矢野さんはかなり苦労を
されたそうです。
そのアタリのお話にご興味ある方はこちらをご覧ください。

これを煮出して染液を作って、着尺を入れて染めて媒染して、と言うことを
何回もやる。

これは染色と媒染を2回ずつ終えたところ。

こちらはそれぞれ4回終えたところ。

とても綺麗だった。染めてても。
前にヤマハゼで染めたときとは全然違う。

このリュウキュウハゼで染めただけで、既に
黄櫨染に近かったりする。

そして、これにスオウを煮出した液に
入れて染めかさね。媒染とスオウ染めをそれぞれ
2回ずつ。
こんな感じ。

濡れてるととても濃く見えるんだけどね。

そして、洗いをして熨斗をして、最後に仕上がったのがこれ。

山崎青樹さんや吉岡幸雄さんがおっしゃっておられる黄櫨染より
だいぶ赤味の強い色目になったような気がする。

あ、でもすみません、本当の分量に比べて、ハゼも蘇芳もそれぞれ
だいたい5分の1程度の使用量ですから。
前にも言ったようにウチの古代色染めは全部“もどき”ですので、ハイm(__)m。

でも、個人的にはなかなか深い品のある色に仕上がったかな、と。
人形師さんも喜んでくださって、袍を作る試作に入られるそうだ。

なんか、今回矢野さんのリュウキュウハゼを使って黄櫨染染めてて
思ったんだけど、昔の黄櫨染って
本当にヤマハゼだったのかな、って。

まだちゃんとヤマハゼで色を染め上げられたことがないけど、
以前手に入った“ヤマハゼ”と思しきもので染めた限りでは、
本当にぼけたベージュっぽい色目だった。

それに、山崎青樹さんや吉岡幸雄さんの本を見ても、
ヤマハゼだけで染めた櫨色(波自色)はやっぱり綺麗ではないくすんだ黄色。
よく言えば温かみのある黄色なんだけど、
悪く言えばぼけた黄土っぽい黄色。

この黄櫨染は、禁色(きんじき)って言って、天皇しか
きてはいけないとてもとても特別で高貴な色目だ。

しかも、平安の初期にはこの特別な色をどうも
ハゼだけで染めていたらしい。

はたして、ヤマハゼだけで染めたこんなボケた色が
禁色になるんだろうか・・?
他の禁色に比べて、明らかに品が落ちると思うのは
アタシだけでしょうか?

この時代、もっと綺麗な黄色は刈安なんかで染められる。
刈安で染めた黄色のほうがずっとキレイで純度の高い、
寒々しい位に高貴な色だ。

当時薬にも使われていたとされる蝋が取れたヤマハゼは
その木自体が特別な扱いで、だから染め色も特別扱いされていた、
ということはあるかもしれないけど、
そんな最高級になる色目にはどうも思えないんだよね。

でも、今回リュウキュウハゼで染めた色は違う。
ほんとに綺麗な山吹色だったよ。
さっきも言ったけど、後でスオウをかけなくても、
少しオレンジ味のある山吹に近い、上品で、
温かくて、元気が出そうな色。

これなら、天皇にのみ許された色だ、と言われても
納得する。

820年に、嵯峨天皇の詔で定められた「黄櫨染御袍」は、
実はリュウキュウハゼで染めてたんじゃないかなぁ。

本土が琉球王国と密接な貿易をやりだしたのは確かに江戸時代からだけど、
ちょっと調べたら、
そのもっと前から朝廷と琉球はやり取りしてるみたい。

一番古いのは、続日本記に記されてる内容で、
奈良時代の714年に石垣島や久米島からの使節が時の朝廷に挨拶に来てるらしい。

その翌年にも貢物を持ってきてるみたい。

あの有名な鑑真は、失明をしてまで753年に日本に渡って来るまでの
長い船旅の途中、沖縄に漂流してしばらくとどまったらしい。

本土でリュウキュウハゼを栽培はじめたのは江戸時代かもしれないけど
その前に、木蝋や染料の形でずっと昔から本土にもリュウキュウハゼは
伝わってたんじゃないかなぁ・・・。

で、詔がでた800年代はリュウキュウハゼが輸入で手に入ったけど
例えばそれ以降たまたま国交が途絶えちゃって、
ヤマハゼを使って染めないといけなくなったから
ヤマハゼだけのベージュ系色目を補うために
スオウをかさね染めするようになったんじゃないかなぁ・・・。

なんて、思わせるような色だった。

あ、いえ、まだまだ全然裏付けないんです。このお話。

ちゃんと説としていうには、当時の古琉球時代と本土との国交やら
当時の櫨(はじ)と言う表現に当てはまる植物の徹底的な洗い直しやら
いろいろやらないといけないわけで、全然そんなオウギョウなこと勉強
してないから、ええ。

でも、時間できたらちょっと勉強してみよっと。

とにかく、そんな風に思わせてくれるくらいキレイなリュウキュウハゼの色だった。

矢野さん、本当にありがとうございました。
これからもよろしくお願い致しますm(__)m。

矢野さん主宰のブログ「松山櫨復活奮闘日記」
http://blog.goo.ne.jp/elster

店主@手染メ屋
https://www.tezomeya.com/

4件のコメント

  1. 「黄櫨染」の染色、興味深く拝見させていただきました。媒染材についての記述がなかったのが残念でした。小生全くの自己流で、山崎先生の著書などを参考に草木染をやっていますが、もともと化学が好きで、自然界からの贈り物である草木の色素と媒染剤との組み合わせによる発色が興味の中心です。何種類もの金属イオンの媒染材で、もっぱらテストピースだけでいろいろデータを集めてきています。最近それらのデータに基づいてハンカチやスカーフなどを染めては知人に差し上げて喜ばれております。もう85歳ですのでこれから先どこまで極められるかわかりませんが、今後も続けていきたいと思っています。

    1. 時田様
      コメントを頂きありがとうございます。ご興味をお持ち下さり光栄です。
      ご自分で色々染めていらっしゃるとのこと、素晴らしいです。
      お読みいただいたものは9年近く前のかなり古いテキストですが、その後も結局は上代にリュウキュウハゼが朝廷に届いていた、というエビデンスはとれておりません・・。
      ただ、やはりリュウキュウハゼの方が圧倒的に綺麗な山吹系統の色になりますため、その後も当方は松山櫨のチップで染めております。
      黄櫨染を染める際の媒染は基本的には現在は焼き明礬(硫酸カリウムアルミニウム無水物)です。
      ただ、最近椿灰が安定して手に入る先様を見つけましたので、古代色の復元の際は積極的に使っていこうと思っております。
      延喜式の黄櫨染に関するお話しはまた今年中に何かアップできると思います。また是非ご覧頂けましたら幸いです。

  2. 本日、天皇陛下退位時に纏っておられた「黄櫨染御袍」を見て、櫨の木で染める方法を探していてtezomeyaさんに出会えました。
    山崎和樹先生が国家珍宝帳に記載されている色名の中から、再現なさった20色を見せていただく機会がありましたが、延喜式を参考になさったとありました。天然染料の染め色は無限で美しく、同じ植物で染めても毎回驚きを与えられます。
    まだまだ勉強が足りないと思いながら染めています。
    これからもブログ読ませていただきます。

    1. 篠原幸子 様
      はじめまして。
      当方のブログをご覧くださり誠にありがとうございます。このブログは10年近く前に書いたことなため表現も拙く考察が稚拙な点が多くあり申し訳ありません。
      現在はもう少し分かっていることがあるのですが、上代のハゼがリュウキュウハゼだったというエビデンスはもちろんありませんし、実はそこにはあまり固執しなくなっています。
      現在のわかったことなどをこちらのブログで紹介できればと思います。
      また、先月に上梓致しました拙書「おもしろサイエンス 天然染料の科学」日刊工業新聞社 でも1単元でハゼのことに関して述べております。
      他の天然染料に関しても多数言及しております。もしよろしければご笑覧頂けましたら幸いです。

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