tezomeya ブログ
緑染めワークショップの報告です
だいぶ時間が経ってしまいましたが、先月の7月23日(土)に伝統色のワークショップ「葛の緑染め」を開催しました。
この緑染め、3年前にも一度イベントでやっているので、今回で2回目。言わずと知れた、故山崎青樹さんが考案された新しい草木染めの手法です。
前回のときは不勉強もあって作業の理論的意味とか緑染めのメカニズムがよくわからなかったんだけど、今回は少し勉強した甲斐あって葉緑素が染まりつく意味がやったとわかりまして、その理論のご紹介と一緒に参加いただいたみなさんときれいな緑染めを体験しました。
前日に番頭が鴨川沿いで刈ってきてくれた葛の葉を皆で細かくちぎります。
で、細かくちぎった葉をアルカリの水で煮込みます。
煮込んでは濾して煮汁を取ります。で、1回目と2回目の煮汁は使わず捨てるのがミソ。3回目の煮汁からストックしていって6回目の煮汁まで濾して染液とします(すみません、画像撮り忘れ)。
なにせ6回も煮出すので時間があまります。その間に緑染めの理論や緑染めの主役である葉緑素のお話しを少々。
これ、葉緑素の分子構造式ですな。字が汚すぎてわからんが。
完成した見事に緑色な染液にクエン酸を入れて中和したのち、あらかじめ先媒染しておいたシルクのストールなんかをその染液に入れて、火にかけて染めはじめます。
80℃くらいまで温度あげて染めたら、今度は中媒染。
緑染めの媒染は銅です。酢酸銅を水に溶かして、その中にうっすら緑に染まったストールを入れてかき混ぜていると、みるみるきれいな緑色になっていきます。
媒染の後水洗いをすると…
ほら、こんなきれいな色に!
そして、もう一回染液に戻して火にかけて染めて
出来上がりです!
ここまでざっと5時間ほど。
予定よりも1時間ほどオーバーしたけど、おかげでとってもきれいな、ほかの植物ではまず一発では染めだせない緑色に染まりあがりました。
これ、葛でなくても緑の葉でなら何でもできるんですよ。だって、植物が持ってる葉緑素って、植物の種が違えどほとんど同じ分子構造だから。なんか3種類か4種類ほどあるみたいだけど、性質はどれもよく似ているみたいだし。
でも植物によって葉緑素を持ってる量とかが違うので、染まりやすい染まりにくいはありますが。
当の山崎青樹さんもさんざいろんな植物で緑染めしてはります。
時間見つけてまたいろいろ試してみようと思いました。
お店にもこの緑染めの絹ストール置いてますよ。
またよければぜひ見にいらしてくださいませ。
次は9月に藍の生葉染めワークショップをやろうかなと思います。
また詳しくはサイトで募集します。
こうご期待!!
春の緑葉染めは山崎青樹さんの本で読んでいろいろ試しました。他には滋賀県立大学人間文化研究部での古浜祐樹さん(指導教員:道明美保子さん)の卒業研究報告「天然染料による染着性に関する研究」と、公開特許公報 特開平9-48925であった「緑色染料、その製法、該染料を含有する抗菌消臭性繊維製品およびその製法」がおおいに勉強になりました。4,5月にはよく染まるのですが7月になると全く染まらないものと、秋になっても染まるものがあるでいろいろ確かめています。なお媒染剤は硫酸銅を使っています。薬屋では簡単には買えないものですが、たまたま昔銅めっきを試していた頃のが沢山ありましたので。
時田様
古濱祐樹先生は現在武庫川女子大学で天然染料ご専門の研究をされており教鞭も取っておられます。当方も色々教えて頂いております。
パテントがあるとは知りませんでした。情報ありがとうございます。
時間ができたらじっくり読んでみようと思います。
夏ミカンの若葉で緑葉染めをしてみました。庭に夏ミカンの木があります。もう苗木を植えてから30年ばかりで、毎年実はもちろん、皮もジャムや砂糖で煮込むお菓子に作ります。葉は冬でも落ちない硬い葉ですが、春先は柔らかい若葉が出るので、今年はその若葉で緑葉染めをしました。若葉約600グラムをステンレスの大鍋で、水2リットル、炭酸カリウム2グラムでPH≒10で30分煮て第1染液をとり、同様にして第9までとりました。60%酢酸液でPH≒7にしてから銅媒染で、それぞれでシルクのテストピースを染めました。今までのほかの若葉での緑葉染めでは第5染液くらいまでだったのに、第9染液でもまだ染色可能なのでびっくりでした。第3染液が一番濃くなりました。
第1染液は経験上緑色が少し濁るようなので捨てましたが、第2から第9までの染液を全部混合してから適当な大きさのなボウルにわけて、媒染剤ごとのテストピースを染めました。アルミ明礬、硫酸銅、錫酸ナトリウム、クロム明礬、硫酸ニッケル、硫酸チタン、ホウ酸、硫酸第一鉄の8種類です。全て綺麗な緑色でした。銅がいちばん濃くなりましたが、アルミでも十分で、廃液の処理、銅イオンが少しでも残ると、ハンカチやスカーフなどを染めた時の、人によってはアレルギーが気になるので、今後はアルミ明礬か、酢酸アルミがおすすめと感じました。
各ボウルに分けてあった染液で、銅媒染でシルクのスカーフ5本ほど染め、みな綺麗な緑色が得られました、一つのボウルで同じ染液で何回も染めると、二回め、三回めでは色が薄くなるだけでなく、緑色が濁ってきます。使いまわしはいけませんので必ず一度染めた染液は捨てて、二回め三回めは新しい染液にすることです。
春の緑葉染めは葉の種類によって、例えばドクダミの様に5月くらいまでしか染まらないで、7月には全く染まらなかったものと、秋になってもまだ同じように染まる、例えばネムやゴーヤのようなものとがあったので、次の計画はこの夏ミカンの葉が何月まで染まるか、真夏と秋と冬に再び試してみたいと思っています。
時田様
詳細な実験ご報告ありがとうございます!
夏みかんの葉って1回30分焚き出しで9回目まで充分色が抽出できるのですね。
緑染めには上記の葛以外にはヨモギを良く使用しますが、かんきつ類は使ったことが無いです。良く染まるのですね。
また、金属もアルミと銅しか使ったことが無いのですが、ニッケルやクロムでも緑になるとのこと。
なるほどです。
葉緑素のテトラピロールに取り込まれた金属は、金属ごと光の吸収特性とかがあんまり関係なくなっちゃう、ってことなんでしょうか。
銅イオンが残るとアレルギーが優位に出るのでしょうか?
確かに、一般的には銅ってイメージ悪いようなのですが、当方、アルミイオンと銅イオンの、人体の健康に対する優位な差に関する記述を目にしたことが無いので、なにかエビデンスをお持ちだったりご存じであれば教えていただけるとうれしいです。
重金属には人のからだにとって必須の元素もあるのですが、多すぎると肝臓と腎臓が体外に排出して体を守る働きがあります。それができなくなるほど多いと障害になりますが、人間が自然界に何も手を加えなかった時代からでも火山地帯での水に含まれたヒ素中毒が、原因も分からずに特定の地域の病気、いわゆる風土病として知られていました。ところが、人間が少しばかり知恵を使って自然界から有用な金属を取り出すようになって、その際の廃棄物によってヒ素、銅、水銀、カドミウムなどによる公害が生じるようになりました。ヒトの皮膚は外物に対する第一の防護壁ですが、内蔵はそれほど強くありませんから体内に入ってしまうと色々な障害を引き起こします。その中間である、内蔵に向かって開いている粘膜部分の、唇、鼻孔、目、肛門、性器などはほかの皮膚よりははるかに弱いです。
ところで、銅のような有害物質は体内に入らなければまずは大丈夫ですから、銅化合物を媒染剤に使ったときはその排水、容器の洗浄、その洗浄水の処置を慎重にすれば問題はないのですが、硫酸銅はどうも印象が悪いです。私は染色材料は東京の高田馬場にあるSEIWAという店で買うのですが、そこのお店の人と緑葉染めの話をしているときに、布に銅イオンが残っているとアレルギーを起こす人がいるといけないので硫酸銅は勧めていませんと言っていたので、気になって少し調べてみました。
銅イオンという点では酢酸銅でも同じなので、薬局で硫酸銅が買いにくいから、お酢に銅線をつけてできた緑青を集めて酢酸銅を使っても同じなのです。硫酸銅が薬局で買いにくくなったのは、いまからだいぶ前のはなしですが、昭和22年ころ、長野県でリンゴの葉の消毒にボルドー液といって石灰と硫酸銅の混合液を散布していた時代があって、そのころ硫酸銅を使ったある毒殺事件があり、そのときから硫酸銅は特別に劇薬扱いになってしまった経緯があります。
ところで金属アレルギーですが、人の体の頑丈な防護壁である皮膚にも、ある金属が触れることで水泡やかぶれを生じることがあるアレルギーがあります。人は自分の体の中に入ってきた有害な異物(アレルゲンといいます)に対して抗体を作ります。敵が入ってきてから自衛隊を作るわけです。次に同じ敵が入ってくるとその抗体が防衛戦を始めるわけで、その戦場の跡が水泡やかぶれになるのです。アレルゲンにはいろいろあるので、アレルゲンごとに抗体が作られるので敵の数だけ自衛隊があることになり、入って来たそれまでに経験した事のある敵に対しては直ちに防衛し、新しい敵にはその敵に対する抗体ができます。その抗体を調べれば、その人は何に対してアレルギーがあるのかがわかるのです。
アレルギーを引き起こす金属は、一番強いのはニッケル、コバルト、クロム。すこし弱いのが亜鉛、マンガン、銅。次が銀。さらに弱いのが金、プラチナ。一番弱いのがチタンとされています。金、プラチナは弱いほうですが通常は純度100%ではなく、銅、銀が合金されていますから、銅なみと考えたほうがいいでしょう。銅は真ん中ですが、これも人によってアレルギ-症状が出る人と出ない人があります。またある時突然出るようになって、それ以後はアレルギーが定着するようになることもあるようです。アクセサリーの地金にニッケルやニッケルと銅の合金がよく使われますから、ニッケルはよく話題になります。ステンレスにもニッケルが合金されているのが多いのですが、ステンレスは表面がクロムの酸化物で覆われているので、そのアレルギーは話題にならないのでしょう。
私は緑が綺麗に出る銅媒染は魅力的なので、最後は染色液で終わることにして布地に残った銅イオンはすべて染色液に吸わせるようにし、後媒染はしません。また染色後の水洗と中性洗剤でのソーピング、そのあとの水洗も十分にするようにしています。また今使っている硫酸銅は、たまたま昔銅メッキをやった時のが残っていたからでしたが、硫酸イオンよりは酢酸イオンのほうがおとなしいと思うので、これが終わったら酢酸銅に変えようと思っています。近くに化学用の試薬を扱っているお店があるので、いろいろな薬品は入手できます。
詳細ありがとうございます。
やはり、銅がアルミに比べて明らかに体に悪い、というデータは見当たらないですよね。
当方は基本的にアルミと鉄しか媒染には使用していません。
これは、当方の知る限り我が国の過去の文献でアルミと鉄以外の金属媒染剤を使用した記録がないから、と言う事だけでして(以前、髪染めに銅を使っている江戸時代の文献を見つけてびっくりしましたが)、環境・健康志向的側面からの考えではありません。単に当方の個人的な想いなだけでして、銅が体に悪いからとかそういうことからでは無いです。
ですが、この仕事をしていて銅の評判が必要以上に悪いのを良く耳にして、あれ? と思うことが多いです。
公害研究に関するいくつかの論文でも同意見を見たことがあるのですが(例えばこちら)、おそらく我が国で銅のイメージが悪いのは足尾銅山鉱毒事件ではないかと思っています。ご存じの通り、件の公害で多くの人間が亡くなったのは、お話しされていた通り銅精錬の際に出てくるヒ素、及びカドミウムなどが原因と言われていますよね。
今この時代でも緑青を口にすると毒だと思ってらっしゃる方が大多数なのがおどろきなのですが、これはどうも昭和の時代の事典や小学校の理科の教科書に「緑青は毒」との記載があったから、と言うテキストを見たことがありまして、それもおそらく足尾銅山の影響かと思いました。
おっしゃる通り体表面からより半透膜的性質がさらに強くしかも常に湿潤である粘膜質からのほうがアレルゲンとなるものを取り込みやすいことは想像に難くないと当方も思っていますが、酢酸銅より硫酸銅の方がイメージが悪いのは単に推定経口致死量が硫酸銅の方が圧倒的に少量だからだと思っています。当方不勉強で硫酸銅を使った毒殺事件があったのは知りませんでした。でも、経口致死量からすると、酩酊状態にして意識がある状態でむりやり嚥下させたら使えてしまうのでしょうね。
SEIWAさんがおっしゃる「銅イオンが残るのがいけないので硫酸銅は危険」ってちょっとおかしいですよね。時田様のお話しの通り、銅イオン自体は他の重金属類とそれほど毒性変わらない、というか例えば経口のLD50値は500mg~1000mg/kgとかですよね。
でも、硫酸銅の致死量って色々なデータあるみたいですけど、少ないやつだと50mg/kgくらいで、厚労省などが毒物の基準にしているLD50値50mg/kg以下を満たしていてかなり危険な量だからですよね。
(※LD50値は例えばこちらの環境省の資料)
銅イオンが残ってるからいけないのではなくて、硫酸銅自体が残っていることがまずい、というか、媒染剤として使うときに誤って吸引しちゃったりすると危ないから、ですよね。時田様のように危険性をよくご存じだから普通に使えるのでしょうけど、当方のような怖がりはとてもとても硫酸銅を使う勇気がありません。なので、当方は必ず酢酸銅を使っています。これは環境の為ではなく自分のためです。
ただ、何度も言いますが自分が銅を使うときは緑染めの場合だけですけど。
そもそも、銅が他の金属に比して優位に危ない金属だったら、ロッテグリーンガムやクロレッツに使われている銅葉緑素が食品着色色素に認められているわけないですよね。
金属がアレルゲンになりやすい傾向度合いは当方知りませんでした。ありがとうございます。
順番を拝見して、勝手におそらく金属のイオン化傾向とヒトの必須金属元素との兼ね合いなのかな、とも思いました。
・・・・長々とすみません。
なんか、この仕事をしていると、銅が理不尽に悪者扱いされる場面に会うことが多く、いつも首をかしげてしまうので、つい長話になってしまいました。
でも、何度も言ってますけど当方は緑染めの時以外は銅媒染使いませんけど(笑)。
書き込みありがとうございました。
添付していただいた厚生省の銅に関する資料では大いに勉強になりました。ありがとうございました。
銅が特に体に悪いということはありませんが、銅でもアルミでも錫でも体に入れば、体が吸収すれば、いいことありません。銅や錫めっきした鍋って結構ありますよね。有機水銀は水俣病で大事件になりましたが、無機化合物でも塩化第1水銀の甘汞(かんこう)は体に吸収されることが少なく、かつては下剤として使われたくらいです。これに対して塩化第2水銀の昇汞(しょうこう)は体に吸収されるので強い毒性があり、かつては殺鼠剤、殺虫剤、殺菌剤として多く使われました。銅の鍋、錫めっきした鍋は私は使いません。アルミの鍋もかなり以前にすべて捨てて、ステンレスと琺瑯の鍋に統一しました。ステンレスもニッケルとクロムを含んでいますが、クロムの表面酸化被膜で覆われているので、琺瑯の次に安全だと思っています。ステンレスが錆びないのはこのクロムの酸化被膜のおかげです。ステンレスの表示で18-8などと表示していることがありますが、18%がクロム、8%がニッケルの意味です。鉄に一定量のクロムを混ぜると錆びない鉄合金ができるるのですが、クロムだけだと色合いが悪いので、輝いた色にするためにニッケルを混ぜています。ところでアルミも体に入ると若年性でもアルツハイマーの危険があるというレポートは多いのですが、厚生労働省は経済産業省に気兼ねしてアルミが悪いとは明快には言っていません。でも医学界の報告では多くの警告がでています。アルミといってもほとんどの鍋はアルマイト処理がされていて表面には酸化アルミの被膜がありますが、金属たわしでこすった後はアルミが露出します。もともとアルミは地球の岩石を構成する主要な金属の一つで、砂ほこりとして人類は鼻孔から吸収しながら何万年も生きてきました。そのあいだに体内からアルミイオンを排出する機構を取得してきましたが、19世紀以降にアルミが大量に使われるようになって、人類の体が持つ排出能力を超えているのだろうと思います。進んでアルミイオンを取り込むことになる、漬物に明礬を使うのを厚生労働省が何も言わないのも困ったものです。
更にお返事くださりありがとうございます。
何事も過ぎたるは及ばざるがごとし、ということですよね。
おっしゃる通り、ホーローが一番安定していますよね。当方も本当は染色用鍋を全てホーローにしたいところなのですが、表面が割れやすくてひびが入った途端鉄が見えてアウトなのと、なにぶん重いのでやはりステンレスです。
ウチは塩を使ったりもするので耐塩性ほかいろいろ薬品耐久性なんかも考えてSUS304(18-8)ではなくSUS316(モリブデン入り)のステンレス鋼を必ず選んでいます。
書き込みありがとうございました!
また別の話題ですが、以前からアントシアニン色素を持つもので、なかなかうまく染められなかったのですが、ネットでいろいろ関係ありそうなものを探しているうちにこんな資料を見つけました。
SEN’I GAKKAISHI(報文)Vol.68,No.8 (2012)
です。これによるとアントシアニン色素を持つもので緑が染められるというのです。アントシアニン色素を持つものでいろいろやったことがあるのですが、酸性で抽出し、酸性で染めれば赤紫に染まるのですが、ちょっとでもアルカリ性にすると赤が消えて青色になってしまいました。もともとは赤紫を染めたくて蘇芳だのコチニールだのではうまくいくのですが、色素が違うためかアントシアニン系のものでは赤紫を維持するのは難しいと思っていました。アントシアニンの紫キャベツ、赤玉ねぎ、ブルーベリー、プルーン、紫芋、巨峰、赤しそ、ザクロ、アジサイ、ツツジ、朝顔などでした。その時は青を染められるのは藍だけといろいろな本で見ていましたから、藍以外でも青は染められるのだと喜んでいたのでしたが、でもアントシアニンは赤紫の色素ですから、それで赤や赤紫が染められないというのは残念に思っていたところ、何と緑が染められうというのですから、これはぜひ試したいと思っています。