tezomeya ブログ
笹紅のこと
先日、久しぶりに口紅を作りました。
この口紅、いつもは染色に使う紅花が材料になります。
昔はそのまま「紅(べに)」と言われ、実は染色に使用されるよりも口紅の原料として使用される方が紅花の需要は多かったらしく、昔の出羽の国(今の山形県あたり)はこの紅花の生産でにぎわっていたそうです。
残念ながら今では口紅にも染色にも使う人間がほとんどいないため、数が少なくなってしまった紅花農家さんが細々と紅花を作ってくださっています。
このあたり、ジブリの「おもひでぽろぽろ」でも取り上げられていますよね。
この口紅作り、作業としては紅花染色の延長線上にあります。
詳しい話はややこしいので(というか誰も読んでくれなさそうなので)省きますが、まずは脱脂綿を紅花で染めます。
びっくりするくらいピンクですよね。とても天然染料とは思えない色。この色目が紅花最大の特徴です。
草木の染め色は複雑で優しい色目が多い中、この紅花のピンクは本当に激しい色目です。暗がりでブラックライトを当てるとわかるのですが蛍光も出ています。まぁ、ホントに珍しい色目です。
何故脱脂綿を染めるかと言いますと、(ややこしい話しだすと誰も読んでくれなさそうなのでやめておいて簡単に・・)紅花の中に入っている黄色成分を完全に取り除いてピンクだけの色素にしたいからなんです。
脱脂綿に染まった色はすぐにまた色抜きしてしまいます。そうしてできた色水がこちら。
泡立っているのは、色抜きに使用したアルカリ液にクエン酸を入れて中和したために出てきた二酸化炭素です。
昔はアルカリ液として藁灰の灰汁を、クエン酸として梅酢を使っていましたが成分としては同じ。もちろんこんな泡も出ていたはずです。
そうして、うまい事赤色だけを沈殿させて、入れ物の内側に塗ったすぐの画像。
もう、赤々しい赤ですね。
なぜ赤い色素が乾くとこんな色になるかというのがわからないんです。
「赤い色素が密度濃く集まると補色の緑に見えるのです」
といった、もっともらしい説明をされている会社さんがおありなのですが、補色というのは人間側の問題でして、色素側の光学的な反射特性が突然うまい事ちょうど補色の波長に変わるといったことは普通に考えるとありえません。
染色科学を専門にされている大学の教授先生などとお話をしたこともあるのですが、やはりそのメカニズムは不明です。
これ、なんとかして解明したいなと思うのですが、そんなお金と時間がウチにはないので、だれか一緒に研究してくれるところないかなぁ、なんて思いながらこのブログを書いております(笑)
まぁ、そんなことはどうでもよいと言えばどうでもよいことでして、要はキレイな色が見えるのであればそれが一番なんですけどね。
この、紅の緑を「笹紅色」と言います。
この口紅、江戸時代には重量単位では金と同じ価値で取引されていたそうで、それはもうお金持ちの旦那さんが目当ての芸妓さんを囲うために大量にプレゼントされたそうでして、この貴重な紅を厚塗りして唇を笹紅色にできるくらいアタシはお金持ちの旦那さんがついてるのよ、と誇示するための色だったり、まぁ、色々と言われのあるお色なんですね。
笹紅の口紅たくさん作ったら、だれか金と変えてくれるかなぁ・・・・(遠い目)。
はじめまして、私たちもカルサミンの緑色金属光沢の謎に興味を持ち、呈色機構を科学的に調べております。情報交換できたらいいですね。https://www.color.t-kougei.ac.jp/research/r_yajima.html
山田勝実様
書き込みありがとうございます!そしてお返事遅くなってしまい申し訳ありません。
サイト拝見いたしました。笹紅に関する学術論文がすでにおありなのでしょうか?素晴らしいです。是非拝見してみたいです。
先月御縁あって貴大学芸術学部の学生さんの卒業研究作品「紅」お客様づてに戴きました。
スタッフ一同拝見させて頂き勉強させて頂きました。
既にお持ちかもしれませんが、試料として紅花口紅が必要でしたらどうぞおっしゃってください。
今後とも宜しくお願い致します。
こんにちは。自分で作ってらっしゃる方、初めてみました。私もちょっと作ってみたいのですがこれは個人でも(規模、価格的に)できますか?
書き込みありがとうございます。
規模も価格も可能だと思います。
ぜひトライしていただければと思います。
返信ありがとうございます。是非やってみたいと思います。これはどのくらいの染料から取れた量ですか?
山形産の紅餅、400g程度でこの2つの分量だったと思います。
ありがとうございます。無知で申し訳ないのですが紅餅と普通の染料とでは何か違うんですか?(重さ当たりの染まる量、品質など)
当方の経験では、通常の中国産の紅花の乱花(乾燥しただけの花弁)と、山形産の紅餅では、含有色素量がかなり違います。ちゃんとした定量などは当工房の設備では全くできないのですが、これまでの経験で非常に不正確な手法での定量比較の限りでは、3~4倍程度は山形産の紅餅のほうが多いという感覚です。ただ、価格もかなり違いますが。
なるほど……色素の量が全然違うんですか……
紅餅と染料、値段はどのくらい違うんですか?
価格はいろいろと思いますが、例えば、
・山形の紅餅
https://midorinouen.shop-pro.jp/?pid=78098922
・中国産の紅花乱花
https://www.tanaka-nao.co.jp/item/135-206-20
ですね。ロットによっても価格が変わるようですので一概には言えませんが、どちらもたまたま50g当たりの価格ですので、割り算すれば約16倍違う、ということになりますね。
リンクまでわざわざありがとうございます。50gで一万円近いとは……凄く高価なのですね