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功と疑心・・(ちょっと真面目な話)

功と疑心・・(ちょっと真面目な話)

facebookでとても興味深い友人のシェアを見つけた。

「それでもあなたは激安Tシャツを買いますか?ドイツで行われた自動販売機を使った社会実験」

日本語の紹介ページはこちら

突如広場に設置された1枚2ユーロの激安Tシャツが買えるという自動販売機。そこにコインを入れて欲しいサイズを選ぶと、Tシャツが出てくる前に映像を見せられる。その映像は、第三世界での低賃金かつ過酷な労働条件での縫製作業を強いられている主に女性の悲惨な状況の解説。そしてその映像を見せられた後に
「それでもあなたはこの安いTシャツを買いますか?」
と言葉が現れ、最後に「買う」と「寄付する」のボタンが出てくる、というもの。

まだ記憶に新しい2013年に起こった悲惨な事故「ダッカ近郊ビル崩落事故」。あの事故が起こった4月24日は次の年からFashion Revolution Dayという記念日になり悲惨な産業事故を風化させないため、これからのファッションの在り方を問い直すキャンペーン日となっている。
そしてそのファッションレボリューションデイのイベントとして、ベルリンのアレクサンダー広場に設置されたのがこの自動販売機。

そのシェア先のブログには、何の気なしにこの自販機でTシャツを買おうとしながら、映像を見るうちに表情が変わり最後は「寄付する」ボタンを押す、という動画が掲載されていた。

興味ある方はこちらの2分弱のyoutubeで是非見てみてください。

これを観て、個人的にとても危険な香りがした。

それは「安モノばかり選んでいると、(おもに第三世界の)モノづくりに携わる人たちはどんどん不幸せになる」ということに、ではない。そんなことは以前からわかっている。

「知らないことやあまり気を留めていなかったことに関して衝撃的なインパクトで情報を突きつけられると、それを簡単に信じてしまう」という現象を目の当たりにして、だ。

バングラデッシュのあのビル崩壊は本当に悲惨な事故だ。今でもよく覚えているし、あの事故で様々な問題が浮上したことも記憶に新しい。
一部のファストファッションブランドへの縫製供給を満たすために建築基準を満たさない増床をし、前日にはクラックが発見されたにもかかわらず無視して建物を使っていたこと、大量のミシンの振動と安全基準を無視して屋上に設置した発電機の振動が相まってビルを倒壊させてしまったこと、倒壊後わずか4日か5日で捜索打ち切りをしがれき撤去作業に移ってしまったことで更に死者を増やしてしまったかもしれないこと。
そして、そのような元凶はファストファッションブランドが氾濫しているからだ、といった風潮が立ち、正直に言うならば手染メ屋のようにどちらかというとファストファッションの反対側にいる私たちにとっては少し有利かもしれない風が少し吹き始めたこと・・・。

何度も言うが、あの事故、というか事件は本当にひどくて悲惨だ。二度と起こってはいけないことだ。

そして、そう思っている人たちも世界中に多かっただろう。先のyoutubeの動画を見ると、自販機に写るかわいそうな縫い子さん達の映像を見るうちに買い手は表情がかわり誰もTシャツは買わずに寄付していた。少なくとも動画に載っていた人は全てそのような行動をとっていた。

この活動自体はとても意義がある事だと思う。日本ではフェアトレードで有名な服飾ブランド「ピープルツリー」さんが音頭を取って活動しているようだ。何度も言うがそのスタイルはとても素晴らしいと思う。ウチのような小さなところにはとてもできないことだ。

だが、怖いなと思うのは、このタイムラインや動画がきっかけでこの活動の主旨が原理主義的に曲解される可能性がある事だ。
「ファストファッションのメーカーはみな第三世界で劣悪環境の工場を使っているに違いない!」
「ファストファッションはみんな世界の敵だ!」
「そんなファストファッションを買う人間も無神経で不道徳な人間だ!」
という三段論法だ。
この価値観はすでに世の中に存在する。アンチユニクロの方たちの一部にもいらっしゃるかもしれない。ちなみに、ユニクロは厳密な意味ではファストファッションではない(ユニクロさんが作るアイテムはほとんどド定番アイテムばかり、市場のファッション動向をいち早く察知して短期で大量生産販売する手法ではないので)。
この価値観が更にブーストされて多くの人に広まってしまう可能性がある。

この自販機に写っていた賃金や労働状況(時給13セント毎日16時間労働)は本当に正しいのか?
著名なファストファッションメーカーは本当にこのような工場を使っているのか?
そもそも画像は本当に縫い子さんの画像なのか?

その場で ”DONATE” のボタンを押してしまうという事は、極端に言うならばこういった疑問の裏を取ることなくこのだれが作ったかもわからない怪しげな自販機のいう事を全面的に信じてしまう、という事だ。

もっというならば、実はそれほどこの自販機に寄付をする人はいなかったのかもしれない。が、このドイツでのファッションレボリューションデイの活動のプロパガンダの為に、 “DONATE”ボタンを押した人ばかりを集めて編集してYOUTUBE動画を作ったのかもしれない。

なのに、そのあたりの裏を取らずにこのタイムラインや動画の価値観を共有してしまうという事は、その延長上に、先ほどのような或る意味差別的な価値観まで行ってしまう可能性がある。
「そんな大げさなぁ(笑)」ですって?いえいえ。だって、全く裏を取らずに価値を共有しちゃってるじゃないですか。同じですよ同じ。このYOUTUBEを信じることと同じ次元ですべてのファストファッションを悪者扱いにする可能性があるんです。

社会実験というならば、何人がコインを投入して購入と寄付の割合がどれだけだったかくらいは最低でも発表するべきだ。
日本語のファッションレボリューションデイ関連のページではもちろん、この活動の主体であるfashionrevolution.orgのサイトの中をかなり探してみたが残念ながらどこにもこの社会実験の結果に関するリリースが無い。
(youtube動画のコメント欄もチェックしたがほとんどドイツ語で分かりませんでしたすんません)

個人的には、こういった発表が無い時点でかなりうさんくささを感じてしまっている。
すなわち、「自分の価値観を不特定多数に植え付けるためのプロパガンダ手段」としてしか当方の目にはもう写らなかった。

掲げていることはまっとうだし、手段がとても斬新で面白いので本当に残念だ。

facebookをはじめて2年半、この手のソースを本当によく目にする。そしてそのたびに危険だと感じることことが多々ある。
2年ほど前にも確かジョシュアベルのワシントン地下鉄駅での演奏実験ネタでちょっとおんなじこと書いたかもだが。
facebook、ホント便利なんですけどね。

まぁ今回の内容はたかだか2ユーロだし、当方ももしこの自販機の前に立ったらそこまで深く考えずに”DONATE”押しそうだが(笑)。

でもほら、一事が万事ってあるでしょ。
一方だけの情報だけでなくて、他方から情報とらないとな、と。
でもね、どれが正しい情報かどうかなんて判断もまぁ難しいですけどね、偉そうに言いながらそこのところは本当に普段から悩ましいところです。

これを機に精進が大切だなと改めて思った次第。ただの独り言でした。

・・あと、この長々としたテキスト読んで頂いて「手染メ屋店主ってやっぱ性格悪いな」と思われた方、すみません、或る意味正しいです(苦笑)。

 

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