tezomeya ブログ
本建て正藍染工房 紺邑(こんゆう)さんのこと
「ウチの藍染は“なんちゃって”ですから」
tezomeyaの藍のことを聞かれたとき、藍染めのワークショップでtezomeyaの藍染めを説明するとき、当方が決まって使うことばである。
「ウチの藍建てはドーピングしまくりですから」
これも当方がよく言うフレーズだ。
tezomeyaが使っている藍は、印度藍という一応天然の沈殿藍タイプのものではあるが(ただ個人的には沈殿藍と合成藍の差は、蒅<すくも>と沈殿藍との差に比べとても小さいと思っている)、染め液を作る(これを藍染め用語で『建てる』と表現する)際に、炭酸カリウム(アルカリ剤。灰に含まれているので一応自然界にも存在することがあるがtezomeyaで使用しているのは人工合成された薬品)とハイドロサルファイト(正式名称:亜次チオン酸ナトリウム、還元剤でこれは全く天然には存在しない薬品)を使用しており、醗酵工程は一切行っていない。
藍染めは天然染料による染色としてはかなり特殊だ。
化学的側面から端的に解説するならば、いわゆる酸化還元反応をとても効果的に利用した染手法で、天然染料では貝紫染め(特定の巻貝の内臓の一部を利用する染め)以外に似た染法が全くない。
その染色手法のメカニズムがおおまかにではあるがある程度化学的に解明された現代であれば先ほど話をしたような薬品を使用して染めることが可能だが、そんな薬品もなければメカニズムなど全く分かっていなかった昔の藍染の手法は、全て醗酵に頼っていた。そして、化学的メカニズムがわかっているかどうかなどは一切関係なく、この国では少なくとも1500年以上前からとてもクオリティの高い藍染を醗酵の力を借りて行っており、それを現在でも受け継いでらっしゃる伝統的な藍染め工房が国内にいくつかある。
藍染めはほかの天然染料による染色とは考え方や感覚、材料、道具、設備準備がかなり違うため、昔ながらの醗酵方法で藍をちゃんとやろうとすると、専門工房にならざるを得ないことが多いのだ。
先月の紅花ツアーを終えてスタッフや番頭が京都に帰る中、当方ひとり東日本に残り、そんな天然醗酵建てをされている栃木県佐野市にある藍染め工房「紺邑」さんに見学と染め体験を受けに伺った。
紺邑さんは、当方のような“ドーピング”や“なんちゃって”とは全く対極にある藍染め専門の工房だ。
工房代表の大川公一さんはもちろんそのまま藍染め師さん。
お伺いすると、この日は大川さんが主宰する「藍建て講習会」の最中でその日は講習会二日目。大川さんが普段から藍の染液を作って管理して染める手法(すなわち藍にかかわること全般)を習得するために、全国から7名の方が7日間の泊まり込み勉強会にいらしてた。
大川さん、こんなお忙しいときにお邪魔してしまい本当に申し訳ありませんでした。
「あのぉぉ、すみません、手染メ屋の青木と申します・・・」と申し訳なさそうに声をおかけすると大川さん、お忙しく解説中にも関わらず時間を見つけてお相手して下さる。そしてまず最初に、大川さんの藍建ての方法の全容を全て解説して下さった。これにはびっくり。
灰汁(あく)をとるための灰の素になる木、そして灰にしてからの処理方法、灰汁の取り方、そして自作の蒅(そう紺邑さんの蒅は全て自作だ)やその素となるタデアイの畑、そして藍建ての仕方・・・。
全ておしみなく、こちらが質問してないことや聞くのを躊躇しそうなことまで全て、解説して下さった。
そして、大川さんの藍染めの方法も全て詳しく解説下さってから、
「今日は青木さんに甕1つお貸ししますから、好きなだけ使って下さい」
と言われてしまった。これにはたまげた。
え、ほんとにいいんですか?
「もちろんです。お持込のTシャツでしょ。お好きな色になるまでどうぞどうぞご自由に。」
と、笑顔で返して下さった。
え、まぢで??藍染め工房に限らず、そんな太っ腹なことを言われたのは初めて。
もしやこれは何か試されているのでは・・?(そんなことは全くありませんでしたが)などといぶかしがりながらも、お言葉に甘えることにした。
やはり、だ。以前に大川さんのfacebookページの画像で見た時と同じ。藍の華が全くたっていない。そして、天然醗酵建て独特のあのニオイがとてもマイルド。蒅のニオイはしっかりしてるけど。とても不思議な藍甕。これまで醗酵建ての藍工房は5軒尋ねたことがあるが、こんな甕は初めて。
そしてまるでシェリー酒のフロールのようにうっすらと膜が張っている(フロールのようには厚くないが)。
今回大川さんのところにお伺いした目的の一つは、この不思議な甕をじかに目と鼻で確認したくて、だ。
予想通りというか予想以上にというか、まぁ当方の経験不足もあるのだろうが、全く不思議な藍。この未体験の藍甕を借りて、お言葉に甘えてガンガン染めさせて頂いた。もちろん大川さんに教わったように、紺邑さんの藍甕を傷めず、そして丁寧にTシャツに色が入る染め方法で。
YOUTUBEに動画あげました。もしよければどうぞ。
大川さんの工房では、藍の発色は水の中だ。
水中発色自体はほかの藍染め工房でも見たことはあるし、当方も薄く染めたいときは水中発色させることがあるが、大川さんのところでは2つの水を使い分けて灰汁をしっかりと抜き、そして確実に水中発色させる。
大川さんがお手本作業中の画像。
10分以上かけて染めて、しっかり水中発色させて、そして30分程度(だったか?)空気に晒して、という工程を5回ほどさせて頂き、ウチの吊オガTが大川さんの藍の色に染まっていった。
画像ではわかりにくいけど、キレのある、だけど深みのある縹色だなぁと感じた。ウチのなんちゃって化学建て印度藍とはやっぱり全然違う色だ。
ウチのはただ濃いだけだからねぇ。
いろいろとお話を伺ったりしながらその日の午後いっぱいを紺邑さんですごし、最後帰り際に甕の中に沈殿している蒅をすくって見せて頂いた。なんともうドロドロで茶色。こんな状態なんだ・・。
天然醗酵建てによる藍染め工房では普通、甕の底にたまっている蒅のゴミが染アイテムにつかないよう、そこにザルなどを落として作業をするところが多い。だけど、大川さんのところはそんなものがなかったにもかかわらず、染アイテムをひとしきり甕の中で揉みくだしたら甕の底に沈めて放置してしまう。
最初この工程を聞いたとき、「そこの蒅、染アイテムを汚さないんですか?」と聞いたら、大川さんがニヤリとされた。
それはこういうことだったんだな、と。
こんなドロドロになってたら、よくある蒅の繊維状のものが付着するようなことがもうないんだな。なるほど。
ウチの工房ではいろんな色で染めないといけないので、普段の作業で手が染まることは厳禁だ。もちろん熱湯に手を突っ込むからというのもあるが、熱くない染液である藍も含めて基本的には必ず手袋をしている。
だけど今回の紺邑さんでの体験はあまりに楽しくって手袋付けるのをすっかり忘れてしまっていた。
正確に言うと、手袋のことは染める直前に思い出したのだがそんなことに気を回すのがもったいないと思ってしまった。
そのなれの果てがこの始末。しっかり頑張って洗ったけどどうしても爪と指先は落ちず。
明日からの染め、どうしよう。スタッフ中家にすべて任せりゃいいか、と(笑)。
・・・・・・・
実は、大川さんのところに伺うには当方にとって少し勇気が必要だった。
大川さんのfacebookやブログでおっしゃっておられる内容を普段から見ていて、少々怖そうな人じゃないかと思っていたから、というのが正直な気持ちだ。
なんか、ウチみたいな“なんちゃって藍染め”してるとこなんかすんごい怒られるんじゃないか、と。
でも、お会いして、限られた時間ではあるがいろいろお話をさせて頂いて、facebookやブログでは気づけなかったことがいくつもあった。
その中でも最も素晴らしいなと感じたのは、大川さんがとてもバランスの良い方だ、ということだ(若輩者がすんません)。
当方もそうだが、一人で工房を構えて仕事をしていると、知らず知らずのうちにお山の大将になってしまいそうになる。この、お山の大将になる原因は、簡単に言うと「こもる」からだ、と思っている。
すなわち、多方面からの情報を継続して拾うことがおっくうになり、時間的にも空間的にもそして思想的にも限られた情報だけから考え判断せざるを得なくなるのだ。そうすると、いわゆる“思考停止”状態になり、自分の考えや仕事や仕上げたプロダクトの時間的空間的思想的な位置付けがわからなくなる。
大川さんは、1週間以上も面倒を見ず、「かき混ぜないこと!」を最も大事な考え方の一つにしておられるご自分の藍甕が、一般的な藍染め工房に比べてかなり異端だということをしっかり認識していらっしゃる。藍の液のpHなんか全然関係ないんだ、なんてことを言うのは天然醗酵建ての中ではかなり変わったことだ、ということも当然十分ご存じだ。少なくとも当方にはそう映った。
これは、そういったお話を熱く語るときに大川さんが必ず付け加えていた単語「いやこれはウチではなんですけどね」がすべてを物語っている。
ご自分の考え、紺邑さんでの藍建て方法、藍染め方法は、全てこれまで大川さんがされてきた色々なトライアンドエラーとたくさんの知識吸収の集大成によって出来上がったシステムだ。素晴らしいシステムだ。だけど、それは、絶対的な正解でもない。もちろんまだ進化し続けておられるのだろうと思う。
そして、そのシステムは、いわゆるステレオタイプ的な“天然醗酵建て”のそれとはかなり違うことを誰よりも十二分にご存じだ。
なので、当然のことながらご自分のシステムが素晴らしいものであることを“客観的”に評価されていると同時に、ご自分のシステムだけが藍染めの唯一正しい姿というわけでもない、ということも重々ご承知なのだ。
そして、そういったことをしっかりご理解されているからこそ、 “藍とはそもそも○○××というもんなんだよ、わかる?” といった、一元的・原理的な理解と説明を上から目線でしている人に対しては容赦がない。
当方がたまに目にする大川さんのfacebookでの“怖い姿”というのは、それだったのだ。
これは、たぶん、
『藍に対する冒涜』
だと大川さんが感じておられるからなんじゃないかと、当方は邪推している。
ご自分に対しての宣戦布告 というよりも、だ。
大川さんにお会いして、説明して下さる雰囲気や工房の空気、仕上がったプロダクト、たぶんいろいろなものが合わさって、ひしひしと感じたのは、大川さんが、『藍』に関わる現象全てに対してとても真摯にまじめにそしてとても合理的(これは全然悪い意味ではありません)に常に取り組んでおられるのだな、ということだった。そして、そういう感じが、大川さんをとても“『藍』に対して謙虚な方”に見せているんだ、と感じた。
そもそもモノづくりに「絶対的な正解」なんてあるわけない。もし「これが絶対的な正解!」や「この到達点が最後のゴールだ!」と言っている人がいたら、それはそこで足を止めただけのこと。その人がそのレベルやそのプロダクトをゴールに決めただけのこと。
やればやるほど先がわからなくなるのがモノづくりだ(これはまぁなんでもそうなんだろうけど)。それを大川さんは、言葉としてではなく、頭と体、すなわち生きている人間全体として受け止めておられて、そのわけのわからん先に向かってずっと進んでおられるんだろうな、と感じた。
そういう方の考え方や手法、そしてプロダクトというのは、とてもわかりやすくてすがすがしい。そして嘘くさくない。さらに言うなら、そういう方は本当にカッコいい。
そう、大川さん、とってもカッコよかったんです。
大川さんと当方は当然のことながら違う人間だ。なので、大川さんのおっしゃることや思想すべてに共感できるかというとそんなことはない。(もちろん藍染めに関しては当方の数百倍も広くて深い技術と経験と知識をお持ちで当方が共感できる出来ないのレベルではないのだが)
だけど、大川さんとそのプロダクトは間違いなく素晴らしい。いや、本当にウチのTシャツに染まりついた紺邑さんの縹色はとても良い色でしたから。
そして、それは、必然なんだなぁ、なるほど、ここから出てくるプロダクトだからそりゃそうだよなぁ、と、紺邑さんを出ての帰り道、そんなことをぼんやり、そしてにやにや考えながら、佐野駅への道中自転車をしゃこしゃこ漕いだ。佐野の宵の口の風はとても心地よいものだった。
・・・・・・・
翌日家に帰って、大川さんに教わった通り洗い処理をした。おっしゃっていた通り黄色い灰汁が出てきた。
そして、大川さんに怒られるかもしれないなぁと思いながら、どうしても紺邑さんの縹色にウチの黄色を乗せた緑を観てみたくて、絞りでTシャツの左側だけ柘榴で黄蘗色を重ね染をしました。
うーん、色は悪くないんだけどTシャツとしては紺邑さんの縹色だけの方が良かったかなぁ。。
そもそも絞り下手だし。
まだまだだなぁ。センス悪いなオレ。
大川さん、ごめんなさいm(__)m。そして本当にありがとうございました。
これからもまた是非お相手して下さったらうれしいです。
今後とも宜しくお願い致します!
紺邑さんのHPはこちら↓
http://www.kon-yu.jp/
わたくし、老藍染め師と少女の交流をテーマにした児童小説を書いており、新人賞に応募しようとしている者です(〝新人〟と言っても、もう72才のじいさんですが)。
藍染めについて調べていて、ネットで佐野市の大川さんのことを知りました。
大川氏の藍建てには石灰も使わない、いわゆる「藍の華」もない。これは衝撃でした。
それまで調べたすべての書籍やネットでは、石灰は絶対的必需品で、「藍の華」を如何に生じさせるかが藍建ての鍵のように言われておりますので……。
TV(所さんの…)を観ていてこちらにアクセスしました(ちなみに「烏梅」はすぐにわかりました)。大川氏の工房にお伺いしたとか。
やはり、「藍の華」はなかったのですね。変な臭いもしないようですね。そうすると、石灰とか「藍の華」とかって、一体何なのでしょうか? 不思議でなりません。
突然、素人が一方的にまくしたてて申し訳ありませんでした。
余計なことを申すようですが、どうかこれからも「染め」に精進してください。
本当に失礼いたしました。
番組をご覧くださったとのこと、ありがとうございます。
大川さんのところの藍は本当に不思議です。
ただ、それは、私たちが、石灰とフスマ(と日本酒やその他)を使って建てるという手法しか知らないからなだけでして、例えば江戸時代のように街のあちらこちらに紺屋さんがあった時代には、もっと多くの建て方があったのだろうと思います。そして、そのバリエーションの一つが大川さんのところの建て方なのだろうと勝手に想像しています。
私はお伺いしたことが無いのですが、埼玉県川口市の田中昭夫さんという著名な藍染師さんの藍甕も、同じくニオイが弱くて藍の華もほとんどなく、そしてとても長生きの藍だ、と、人づてに伺ったことがあります。
田中さんの藍も、おそらく現在の一般的な藍とは違うことが起きていて、大川さんのところの藍ともしかしたら似てるのかも、と想像しています。
田中さんの工房は基本的に見学不可のようですので、伺えませんが。
地域ごとにお味噌の作り方が若干違うのと同じように、藍染が普通に存在した昔は地域ごと、紺屋ごとにいろいろな手法があったのだろう、と思っています。
ご参考になったかどうかわかりませんが・・。
本格的な藍染にはまだ手が届かないと思って、藍の生葉染めから始めてみました。たで藍の種子はネットで知った武庫川女子短大の牛田研究室で分けていただき、昨年の4月に庭の隅に蒔いたのです。1メートル四方ほどの土地でしたが、7月末に生葉を刈り取ってミキサーで青汁のようなジュースを作り、手早くシルクを浸して、オキシドールを加えた水に浸して酸化させました。綺麗なブルーに染まりました。藍の葉を摘み取ってから30分以内という作業です。シルクは高田馬場にあるSEIWAというお店で購入した「ふくれ格子」という無地のシルクストールです。
これに気をよくして今年は藍の乾燥葉での染めを試しました。参考にした資料は
牛田智、川埼充代「インジカンを保持した状態での藍の葉の保存とその染色への利用」日本家政学会誌、52巻1号、p75-79(2001)」です。
昨年生葉染めをしたときに大量の葉が取れましたが、それを電子レンジでの乾燥葉と風乾での乾燥葉にして冷蔵庫に保管しておいたのでした。それを使って電子レンジでの乾燥葉は100℃くらいで煮出しました。これは色素抽出用です。一方風乾での乾燥葉は手で揉んで粉状にしました。これは酵素用です。、その両方を混ぜて1時間ほどしてからシルク材を浸し、オキシドールを加えた水に浸して酸化させました。シルクは生葉のときと同じ「ふくれ格子」です。これで生葉染めと同じくらいの綺麗なブルーに染まりました。これで生葉の収穫時期に関係無く生葉染めと同じくらいのブルーの染色ができるようになりました。
今後の改良点は、水に浸けての酸化なので、一部分を染めるつもりが全体が染まってしまったことで、グラデーションや部分染めができる工夫をしたいと思っています。そのために、昨年種子を採取してあったのを、今年は天候不順だったので少し遅れて5月に蒔いて、いまは10センチほどになっています。
時田様
牛田先生の電子レンジを使用した生葉染め実験のご報告、ありがとうございます。
当方も以前行ったのですが、その際の酵素用には葉を冷凍しておきました。
ですが、おっしゃる通り熱をかけない短時間乾燥であれば大丈夫なのですね。今度当方も試してみます!
おもしろいのですが、髪染め用の藍の乾燥葉粉でも生葉染めができることを去年見つけました。
こちらの商品です。
https://graciasshop.cart.fc2.com/ca11/64/p-r11-s/
こちらの商品、乾燥のみで作られているようなのですが、充分に生葉染めと同様の染め色になります。
インドは乾燥していて高温なので、電子レンジレベルの速度で水分を飛ばしてしまうのかもしれません。