tezomeya ブログ
大城戸織布さんとジャカード織機
1.ジャカード専門の機屋さんが風合い重視の無地織物を作るフシギ
大城戸織布(おおきどしょくふ)さんは兵庫県西脇市にある機屋(はたや)さん。生地屋さんではありません。
織物を自社で織って、生地屋さんに生機(きばた、織られただけでまだ洗いや染色・プリント加工がされていない状態の生地のこと)を供給する、生地のおおもとのメーカーさんです。
食の世界で言うならば、八百屋さんではなくお百姓さんであり、魚屋さんやとれとれ市場のお店ではなく漁師さんです。
今回、とても幸運な縁がありまして大城戸織布さんから直接織物を仕入れることができるようになったのですが、大城戸さん、何がすごいって、注文通りの織物を小ロットで織ってくれるんです。
お魚で言うならば、漁師さんが釣ってきたお魚を選んで買うのではなく、ボクが漁師さんに「あの魚釣ってきて!」と頼んで、ズバリ、もしくはそれに近いお魚をとってきてくれるようなものです。しかも、10尾や20尾みたいにとても少量から。
これ機屋さんとしては異例の仕事の仕方なんです。しかも、大城戸さんのとこは元々ジャカード専門の機屋さん。ジャカードとは、簡単に言うとジャカード織機という自動織り機で自在に織り柄が作られる手法とその生地。京都の西陣の帯のつくり方でも有名ですよね。
このジャカード織機は、複雑な柄を織るために作られた複雑なマシンです。でも、大城戸さんはこのジャカード織機で、柄を入れずに、微細な風合いや生地感を醸し出すシンプルな織物を、いろんなバリエーションで制作してらっしゃいます。
しかも、その風合いが、昔の織機で織ったような、味のある顔になってたりするんです!
なぜそんなことができるの?そもそも何でジャカード屋さんがこんな風合いの織物を織れるの・・・?
異例づくしの大城戸織布さんの正体をここで披露致します!少々専門的な内容になってしまうところもございますが、ご興味お有りの方は是非ご覧下さいませ。
2.そもそも“織り”とは?
大城戸さんのお話しに先立って、簡単にですが“織り”とはどんなことなのかをざっくり紹介いたしますね。
文字だけで恐縮ですが、頭の中でバーチャルに想像頂けると嬉しいです。
なにやら先生モードのようになってしまってて申し訳ないのですが、これが頭に入っていないとこの後のお話しが少々わかりづらくなりますので、イントロ代わりと頭の体操にさぁどうぞ。
- 1.まず、同じ長さの糸をたくさん並べて張ります。全ての糸の両端は動かないように止めます。これをタテ糸(経糸)と言います。
- 2.次に、並べた糸に番号を振ります。例えば並べた糸が200本なら1から200まで。
- 3.偶数の番号の糸2、4、6、・・・200までの偶数グループの100本の糸を一緒に少し真上に上げます。
- 4.同時に、奇数の番号の糸、1,3、・・・199までの奇数グループの100本の糸を一緒に少し真下に下げます。
- 5.すると、張った糸の偶数グループと奇数グループの間に隙間ができます。ここに新しい別の糸を通します。この新しく入れた糸をヨコ糸(緯糸)と言います。
- 6.200本のタテ糸を元に戻します。
- 7.今度は偶数グループのタテ糸100本を少し真下に下げ、奇数グループのタテ糸100本を少し真上に上げます。
- 8.タテ糸偶数グループとタテ糸奇数グループの間に出来た隙間に、また新しい別のヨコ糸を通します。
- 9.200本のタテ糸を元に戻します。
・・・というふうに、3から9の工程を繰り返しずっと続けるんです。すると、タテ糸とヨコ糸がどんどん規則的に絡み合ってほぐれない布になりますよね。これが、織物です。
上の例は、タテ糸が最も単純に上下してできる一番シンプルな織物、平織(ひらおり)というものです。このタテ糸の上げ方をいろいろ工夫すると、様々な種類の織物が出来上がりますし、タテ糸1本1本をそれぞれ独立して上下できるような仕組みを作れば、その動かし方で自由自在に柄ができるんです。
この、タテ糸全てを自由自在にコントロールできるような織り機が、ジャカード織機です。もちろん、ジャカード織機でもシンプルな平織りなどの織物を作ることは可能です。が、ただ単純な織物を作るだけなら、もっと機構が単純な織機を使えば済みます。でも、大城戸織布さんはジャカード織機ならではの独特な使い方でいろんな織物をおってらっしゃいます。では、具体的なお話に・・・・
タテ糸が全部独立して動くようになってます
ちょうど手染メ屋の生地を織ってくれているときに伺ったので、その織り機の画像で説明をします。
これはタテ糸が綜絖(そうこう)に通されている部分。画像の上の縦方向の長い針みたいなやつが綜絖というものでタテ糸の上下の動きを制御します。
これに、白いタテ糸が一本一本通されています。今、タテ糸が綜絖によって互い違いに上下に動かされて、まさにヨコ糸が通っているところです。このタテ糸、セッティングするの大変ですよね。普通の織物のタテ糸の本数はなんと2000本以上!これ、もちろん一つずつ手で通すんですよ。考えるだけで鳥肌立ちます。
ジャカード織機でビンテージな織物を作る極意が・・・その1
大城戸織布さんのジャカード織機は全てレピアという方式でヨコ糸を入れる織機です。これも、最新のエアジェット方式やウォータージェット方式に比べれば少し古いのですが、昔の表情と味のある良い風合いの織物を作る機構は、更に古いシャトル(筬)方式でヨコ糸が運ばれるもの。シャトル方式は筬(ひ)という大きい木製の道具がヨコ糸を運びます。そのため織る速度が遅い。ですがレピア(槍の意味)は画像のよう槍のような細い道具が糸を掴んで運びます。ですからシャトルより早く動くことができて、織り機の高速化に繋がりました。
ただ、早く正確に動くためにタテ糸の上下動を大きく取らないといけなくなり、そのため織られる際のタテ糸の張りがきつくなり過ぎて織り上がりは硬くなってしまいます。
レピア式のこの短所を補ってシャトル方式に近づけるために、大城戸さんはこのジャカード織機の特徴を活かしてタテ糸それぞれのテンションをギリギリまで緩めて織っているのです。タテ糸を緩めると織り機の動きが緩慢になってしまい糸の動きに間違いが起こる可能性が高くなるのですが、それをこれまでの経験で微妙に調整しながら作業を進めているそう。
これ、地味だけどすごい難しいことだと思います。
ジャカード織機でビンテージな織物を作る極意が・・・その2
すみません、だんだん専門的且つマニアックになってきましたが・・。この画像はレピアにヨコ糸を供給する部分です。レピア方式は、ここから糸を掴んでは縦糸のあいだを運び、一本運んだら糸を切って、また新たに糸を掴む、という仕組みなのでいろんな種類のヨコ糸を順番に入れられるのも特徴の一つ。
これは手染メ屋のシャツ用高密度ブロードを織ってもらっている画像です。この生地はヨコ糸は全部40番綿糸。だから一種類の糸でOKなんですけど、画像よく見てください。3番目と4番目の口から2本糸出てます。なぜ?
これは、ヨコ糸を入れるときに交互にテンションを変えるためだそうなんです。シャトル方式のヨコ糸は、単純な構造なのでシャトルが行ったり来たりするときに少しテンションが違うんですって。で、そのヨコ糸のテンションのブレが、シャトルならではの表情豊かな風合いを生むそうなんです。大城戸さん、そのテンションのブレをレピアとジャカード織機の機構を使って再現してるんです!! これ、シャトルの風合いと機構を、そしてジャカードとレピアの機械を知り尽くしてないと出来ないですよね、たぶん。すごいです・・。
懐かしい!パンチカードで動いてます
織り機の上が屋根裏っぽく別部屋になってまして、そこに上がってみると、懐かしいパンチカードが!
動いてるところを暗いところで撮ったので画像ボケてわかりにくいですが、厚紙に穴があいてるカードがたくさん並んでそれがぐるぐる動いてるんです。この穴のパターンが信号になってタテ糸が上下する仕組み。科学特捜隊やウルトラ警備隊のコンピューターから出てきてたあの穴あきテープと原理は同じですね、ハイ。新旧織り交ぜた技術がそこここに散りばめらててとても楽しい見学だったのでした。
で、最後は大城戸さんです
大城戸織布を切り盛りされている代表の大城戸さん。元々は超大手生地商社の営業マンをされていたそう。話をしていてバイタリティとパワーあふれるそのオーラから、間違いなくはえぬきのトップセールスだったのだろうな、と。話と行動が本当に早くて簡潔です。しかも経験と技術をお持ちで。こういう方がこれからの織り産地を背負っていかれるのだろうな、と。店主と年が近いこともあり、駆け引きなく本音でお話が出来るとても貴重な方。これからもよろしくお願い致します。
長々とすみません、最後に・・・
もっともっと色々びっくりなことがあるのですが、あまりに専門的になりすぎるのもなんですし、当方も織りの知識がそれほどあるわけではないのでこれ以上話してボロが出るのも怖いですし、この辺でやめておきますね。
けど、大城戸織布さんのフシギなスゴいとこはもっともっとあります。当方で分かることでしたら是非手染メ屋までお問い合わせいただければ結構ですし、具体的に織り物に関して相談したいことがお有りの方は是非直接伺ってみてください。大城戸さんも多くの一流の作り手と同様、何も隠さず全てオープンにお話して下さいます。
とかく大量発注が必要な織物の業界に、こんなに面白い素材を高い技術でこともなげに少しずつオーダーメイドしてくれる機屋さんがあるなんて・・。本当に目からウロコです。大城戸さん、今後とも末永く宜しくお願い致します。