tezomeya ブログ
ブロックプリント“アジュラック”ワークショップ開催報告
2018年6月23日(土)、ブロックプリントワークショップを開催させて頂きました。
募集スタート後なんと4時間で埋まってしまい、3日前に2人のキャンセルが出たため再度募集したところこちらも1時間で埋まってしまうという、tezomeya始まって以来の大人気イベント。
開催日も、30分以上前からご参加の方々がいらして下さり、皆さま本当に楽しみにして下さっていたご様子でした。
それではワークショップ内容の報告をさせて頂きます。
今回、tezomeyaにいらして下さったのは、Sufiyan Khatri氏と、Sufiyanの伯父さんであるAbdul Khatri氏のお二人。
お二人はインドのグジャラート州カッチにある、10代続くブロックプリント工房 “Khatri Fabric” の職人さん。特にSufiyanは次代(11代目)の継手でして、お若いながら地域の工芸を広める為世界中を訪れています。
今回もうめだ阪急さん開催の「インドの手仕事の宝庫カッチの布」展での展示販売及びワークショップの為にお越しでして、そのついでにtezomeyaでもワークショップをして下さることになりました。
カッチ地方でのブロックプリントを”Ajrakh”、アジュラックと言います。
本来は1日1工程で、作り方によっては総勢16工程16日かかってしまうアジュラックの製作作業を、なんと1日で見せて下さいました。以下、工程ごとに簡単に解説していきますね。
1.ペーストづくり
これはワークショップの前日にSufiyanとAbdul のお二人で工房に来て下さり、事前の仕込みとしてペーストを3種類作ってくださいました。
これは、明礬と粘土を混ぜている様子。ペーストの一つです。この後アラビアガムを入れていました。
この他にも、アラビアガム+石灰のペースト、そして硫酸鉄+増粘多糖類系糊剤のペーストを作りました。
どのペーストでも、必ず最後に注意深くしていた工程が布濾し。
これをしっかりしておかないと、少しでもダマになったペーストは後々細かいプリントに支障をきたすとのことでした。
3時間以上かけて丁寧にペーストを作ったのち、彼らはモスクへお祈りに出かけました(彼らは経験なムスリムです)。明日のワークショップの成功をお祈りしておいてね、とお伝えしておきました(笑)。
2.ブロックプリント
当日、まずはSufiyanからアジュラックの歴史、動画を観ながらの解説などをして頂いた後、実際の実技に。
まずは生地を並べて木製の木版型を使ってそれぞれプリントを置いていきます。
これが木版型。
4つの版型がありますが、それぞれ違うペーストに付けて生地に乗せて、この4つの版型で初めて1つの柄ができます。
これ、もちろん全部手彫とのこと。
拡大画像が無くすみませんが、かなり彫が深かったです。これは、糊づまりを避けてだそうです。
これを使い、布地にそれぞれのペーストを乗せていきます。
これはまずアラビアガム+石灰のペーストを乗せているところ。
このペースト部分は防染になり、白抜き柄になります。厳密に言うと下染めのミロバランの色ですが。
そして、デモンストレーションでは、表裏同じ位置にペーストを置く作業もしてくださいました。
分かりにくいんですけど、うっすら糊が見えているのは、先ほど裏から見えている糊。全く同じ位置に、なんと目分量で乗せて行きます。そして、その作業が早いんです。びっくり。
表裏同じ位置に乗っているのが、光に透かすとわかります。
・・まぁ、ごく一部ずれているのはご愛嬌です。
といいますか、これは、tezomeyaの机の強度とその上に敷く生地がどうしても波打ってしまうから。彼らが自分たちの工房でするときは、頑強なテーブルに、シワの撚らない生地を何重にも重ねているとのこと。
道具と環境がままならない状況で、実演をすることほど難しいことはありません。こんなところで精度の高い仕事をして下さって本当にありがとうございますですm(__)m
その後、次に硫酸鉄のペーストを乗せます。
これは、下染めされているミロバランと鉄の反応によって後々黒くなる部分です。
なお、普段彼らは錆びた鉄と砂糖とタマリンドパウダーを混ぜたものを使っているとのこと。錆びた鉄を機内に運べなかったため、今回はやむなく硫酸鉄のようです。
そして3つ目の最後の版押しは、明礬のペースト。
ここは、ミロバランと明礬のアルミニウムが反応して黄~ベージュ、もしくは最後の茜染めによってきれいな赤になるところです。
糊置きが出来上がった生地がこちら。
鉄のペースト部分は既に黒くなっていますね。
防染ペーストと明礬ペーストも色が違うのですが、パッと見は分かりませんね。
そして、Sufiyanから「みんなもやって下さいね♪」と言うお言葉!
当初はSufiyanのデモンストレーションだけの予定だったのですが、急きょなんと参加者の方も体験頂けることになりました。
みなさん、嬉々としてブロックプリントはじめました。
やはりなかなか難しく、とてもとても両面なぞは無理でしたが、3種類のペーストをみなさん慎重に版押しして載せていきました。
さぁ、そして次の染め工程に突入です。
3.藍染め
糊置きしたアイテムを藍染めします。
ここで、しっかり洗うためペーストは全て取れます。
すなわち、防染ペースト部分と、明礬ペースト部分には藍染めが入らず、鉄ペースト部分は黒く反応していたため藍が入ってもわからない、と言う状況になります。
そしてこの後、最後の茜染めに行きます。
4.茜染め
インド茜の粉末をお湯で溶いて、そのまま染色に入ります。
これで全体に茜が染まるのですが、防染されていただけのところ、明礬が付いているところ、鉄媒染されているところ、藍染めされているところ、と4種類の部分があり、それぞれに茜の入り方が違ってきます。
そうして最後水洗いして、出来上がり!
もう、この時のSufiyanのドヤ顔がたまりませんでした(笑)。
そしてこのドヤ顔、単に自慢げな顔と言う訳ではなく、実はちゃんと意味があったのでは、と個人的には思っています。
ちゃんとしたアジュラックの染めのすべての工程の間には、日光に生地を晒して乾かす、という工程が本来は必ず入ります。現地での画像、こんな感じです。
ラクダの糞とソーダ灰とひまし油で生地の糊抜きをした後(この工程だけで3~4日かかる)に1日干して、ミロバランの下染め後に1日干して、ペーストを1種類版押ししてはまた1日干して、藍染めしてから1日干して、そして茜染めしてから1日干して、という感じです。
個人的に感じたのは、Ajrakhが版押し程度(と言っては失礼ですが)の染で、特に蒸しなどもせずなのに、なぜそこまで色落ちし難いのか、というのは、おそらくこのインドの乾燥して日差しの強い土の上に直接1日干す×工程日数分、という作業があるからなのかな、と感じました。
Sufiyanが事前準備の時のボソッとおっしゃってましたが、こんな短い時間でAjrakhの全てを見せるのはとても無理のあることで、彼もちゃんと染まってほっとしているようでした。
そして、この表情は、ドヤ顔などではなく、インド人の安堵の笑顔なのではないか、と。
・・そして、ワークショップが一通り終わってから、実際に彼らの工房でつくられているAjrakh作品の現物紹介。
素晴らしい作品ばかりで、誰かが「欲しい!」と言ったら、「売り物ですよ♪」とSufiyan。
しかも価格がびっくりで(諸事情があり値段はお伝えできませんが)、tezomeya工房スペースがたちまち大人気Ajrakh訪問販売スペースになりました。
正直、少々取り合いムードにもなってしまいましたが、tezomeyaもなんとか1枚ゲットできました。
そして、Sufiyanが木版以外の道具と材料のほぼ全てをtezomeyaに遺して下さいました。
木版だけは後生大事にバッグに詰めておられました。
なので、皆さまお帰りの後、店主が残っている材料を使い一人でなんちゃってAjrakh製作。
3種類のペーストを使い、木版が無いので同じ大きさのおちょこで単純なまる柄。
藍染めして、茜染めして、なんとか出来上がりました。
すんません、だいぶふざけた柄ですが・・。
今回、SufiyanとAbdulの作業やお話しを間近に観察させて頂けて、ブロックプリントの理屈が少しわかったような気がしました。
このブロックプリント工程、それぞれがとても合理的に考えられています。
たとえば明礬や鉄のペースト。あれ、防染だけじゃなくて着抜工程になっています。着抜って現代のプリント工場の合理的なテクニックの一つですけど、これを何百年も前から、もしかしたらAjrakhが始まった3000年以上も前から、彼らはシレッとやっていたのだろうかと思うと、インドの歴史と技術の奥深さに感嘆せずにはいられません。
あまりに面白くて感嘆したので、Sufiyanにお許しを頂いてから、Ajrakhなんちゃって解説ワークショップを開催しようかななんてもくろんでます。
何度も言いますが、木型が無いので、あくまで“なんちゃって”です。
いやぁ、Sufiyanさん、Abdulさん、本当にありがとうございました!
そして解説をして下さった長谷川千代様、更に、お客様でありながら通訳を一手に引き受けて下さった朝日のぶ代様、そしてそして、今回のtezomeyaでのワークショップの段取りを作って下さったラック研究会の北川美穂様、本当にありがとうございました!
※画像の一部は、ラック研究会主宰の北川美穂様からのものを使用させて頂いております。